~6年間の取り組みを"一体感"と"自信"でさらに実践的に~
大学の防災計画・訓練のステップアップ 専門家の視点で支援
学校法人 龍谷大学 様

学校法人 龍谷大学 様

高等教育機関として1639年以来、実に380年の歴史を持つ龍谷大学。京都では深草と大宮、滋賀では瀬田と3つのキャンパスを有する総合大学です。在籍学生数は約2万人、災害時に多くの学生や教職員の安全をどのように確保し、授業再開という事業継続を早期に実現するのか、6年間をかけて学内スタッフで試行錯誤しながら災害対応計画と訓練を作り上げてきました。今回、それらを専門家の目で評価し、さらに実践的なものにしていきたいというご依頼を受け、約1年にわたって支援した施策をご紹介します。

「キャンパス」ならではの苦心

――防災に対応するための取り組みを6年間にわたって続けてきたとうかがっています。

2013年から全学防火・防災訓練を始め、同じタイミングで防火・防災マニュアルを自分たちで作成しました。学内の組織として防火・防災管理委員会があり、そのもとにワーキンググループを立ち上げて具体的な内容などを決めています。

マニュアルは学生と教員と職員向けに分けて作成しており、訓練はこのマニュアルに則って実施してきました。本当に何もわからないところから手探りで作り、他の大学の様子も参考に見学させてもらったりしながら、毎年更新を重ねてきました。ただ、訓練後に明らかになった課題を踏まえると、いったん作ったマニュアルにも欠けている部分はたくさんあることに気付きました。毎年見直すのは手間がかかりましたが、何よりも有事の際に実際に行動の指針となるマニュアルにしなければという思いが強くありました。

――学生、教職員を合わせると多くの人が在籍、しかも場所が分かれているキャンパスならではの防災の取り組みには、多くのご苦労があったのではないでしょうか?

本学は京都に深草と大宮、滋賀に瀬田と3つのキャンパスがあります。場所も分散していますし、瀬田キャンパスの先端理工学部では日々実験が行われており、授業のスケジュールも他キャンパスと異なります。また、本学の特徴でもありますが、大宮キャンパスでは数百年前からの貴重な文献や重要文化財も所蔵しています。そんな大学、滅多にないですよね(笑)

一口に大学と言っても全部が同じではなく、それぞれ特色があります。いつも全員がキャンパスにいるわけではありませんが、それでもトータルで数千人の学生を参加させながら、大規模な訓練を安全に実施するのは大変でした。


試行錯誤でレベルアップ

――今では所轄の消防署からも訓練に対して高い評価を受けています。そこに至るまでにはさまざまな試行錯誤があったのですね。

訓練に立ち会ってもらった消防署員の方々から受けた講評やアドバイスの存在は大きかったです。例えば「火災では、火が出てから消火活動を始めるまでが勝負」ということを言われました。そこで訓練とはいえ、消火活動にあたる人たちには歩かずに最速で出火場所にたどり着く努力をしてもらうようにしました。

避難時に誘導漏れがあった反省を踏まえ、誘導班はチェックリストを作りました。「誘導完了がわかるように付箋一枚でも目印をつけて」というアドバイスを受け、雨天や消火活動の影響も考えて防水の付箋紙を購入、備蓄倉庫に保管し、有事の際に使用できるよう準備しています。

大人数の学生をどう動かすのかもずいぶん議論しました。避難集合場所になっている広場に誘導する流れを作り、いったん集まった学生たちに”安否カード”を書いてもらい、回収したあと、学生を滞留させないようどう移動させるか思案した結果、広場から通用門へ移動させて帰宅できる人はそのまま解散させ、帰れない人には別の待機場所を設けるように避難の流れを一方向にしました。 応急救護も、最初は看護師が傷病者役のところへ駆けつけていましたが、今は誘導班と連携するようにしています。安否確認の方法もOCR用紙に記入させていましたが、2018年から大学独自のポータルサイトへの登録をメインにと切り替えました。ポータルサイトの登録画面や回答項目などもワーキンググループのメンバーで作りました。

とにかくやってみないとわからないことがたくさんありました。6年間継続してきてようやくさまざまなことが固まってきたと感じています。

専門家の力で課題突破目指す

――自分たちの取り組みで「固まってきた」レベルにまで達しながら、今回初めて外部委託に踏み切られたのはなぜですか?

訓練もマニュアルもいろいろと悩んで作ってきて、ある程度のところまできたものの2017年度ごろから手詰まり感がありました。自分たちのやっていることが正しいのか、どこをめざせばよいのかわからなくなっていたのです。対応策についても、何をもって妥当とするのかという判断ができない点が心配でした。また、ワーキンググループは各キャンパスの各部署から代表者に集まってもらって活動してきましたが、メンバー間の温度差もかなりあったことが悩みでした。

これまで自分たちが取り組んできことに対して客観的な評価を受け、マニュアルも一つの完成形を作るためには、素人にはできない専門家による支援が必要だと考えました。ありていにいえば、学外からの客観的な「専門家のお墨付き」が欲しかったということです(笑)。同時に施策の妥当性の根拠も知りたいと思っていました。幸い2019年度は予算化ができたため、複数の会社からの提案を受けて内容を比較検討した結果、御社に決めました。

管理課:椿本課長


メンバーに生まれた一体感と自信】

――私たちの提案は、希望された訓練の評価とマニュアルの作成支援ももちろんですが「危機対策本部員」となる執行部やワーキングメンバーの方々への意識づけと活性化を行うことに力を入れました。ほぼその通りの施策実施となりましたが、感想をお聞かせいただけますか?

最初にワーキングの場で(参加者が災害を想定して解決すべき課題を出し合い、具体的な手法や問題点を追究していく)「危機意識向上のイメージトレーニングワークショップ」を実施してもらったことが大きかったです。従来は、他キャンパスのメンバーはテレビ会議で繋いで会議に参加してもらうことがほとんどでしたが、「とにかく集まって!」と頼んで深草キャンパスに来てもらいました。みんなで議論をしたことで一気にワーキングの温度感が上がりました。

それまでは事務局を中心に一部の人間だけが必死になって進めているような傾向がありました。その“熱“が、みんなに少しでも移ればよいかなと思ったのですが、ワーキングメンバーの意識がすっかり変わったと感じることができました。

ワークショップではみんなから積極的な意見が出たことに驚きましたし、メンバーの一人一人がしっかり考えている印象も受けました。その効果は後日、当年度の訓練の改善ポイントを班ごとに出してもらう提出資料を見れば明らかでした。前年度までは提出が期限に遅れる部署もあったのですが、当年度は提出された資料の分量の多さや内容の濃さといった点でかなり充実していました。 「第三者に見られている」という意識も良かったのかもしれません。ワーキングの会議では毎回LSのコンサルタントさんが事務局の隣に座り、その場で意見を求められるので、会議が進めやすかったです。もちろん会議の前にも相談ができましたし、資料も一緒に作ってもらいました。会議で方向性をきちんと打ち出すことができたことで、ワーキングでは多少の修正はありましたが、しっかりと議論ができたと感じています。初めて自分たちの行ってきた訓練が「きちんと取り組めている」と専門家に評価され、これまで本当に手探りでやってきたことが間違っていなかったという自信が持てました。

――訓練後の振り返りも初回と同じようにワークショップ形式で集まって議論をしていただきましたが、いかがでしたか?

もともと毎年の訓練後は、感想だけで終わらせず、次年度はどうしていくかを各班で検討し、取りまとめていました。結果は防火・防災管理委員会にも報告しています。訓練の後に時間を置かずに振り返りをしておけば、年度が変わって担当者が異動した場合でも、報告書に書かれた次年度の変更・改善すべき内容を、訓練シナリオに反映できるというメリットがありました。

今年は自分達で議論して振り返りがきちんとできたのがさらに良かったと思います。それに加えて客観的なコメントや評価をもらえたことも良かったです。やはりフィードバックはとても大事ですね。

――弊社(NTT ExCパートナー)の支援についてどのように感じられましたか?

もっと使えばよかったですね(笑)。訓練シナリオの作成も自分たちだけでは時間が足りず、じっくり考えて書きあげることができませんでした。当初の段階からアドバイスをもらいながら一緒に作業できたらよかったと感じます。

学長以下、危機対策本部員向けの”執行部研修”もせっかく準備していただいたのに、(新型コロナの影響もあり)実施できなかったことが非常に残念です。形は”研修”でしたが、危機対策本部員の意見をもらえるように企画されていたので、聞いておきたかったですね。例えば、何をもって危機対策本部を立ち上げるのかといった参集の条件に対するトップの意見や方向性がわかれば、マニュアルに記載すべき基準もそれに沿って見直せていたかもしれないと思います。

研修は危機対策本部員がどうあるべきか、どのように意思決定を行うのかなどが、きちんと盛り込まれている内容でした。早めに実施できていたら、新型コロナへの対応も違っていたのでは、と感じています。

管理課:小坂様


――今後の課題についてはどのようにお考えですか?

この先は、訓練時にシナリオを見ないでもどれだけみんなが動けるか、ですね。それに加えて、どうしても人によって取り組みの温度差はあるので、引き続きそれを上げ続けていけるか、でしょうか。今回(LSに)やっていただいたワークショップで、その効果は強く感じましたから。訓練に関しても、毎年同じ内容を繰り返すだけでは意味がありません。そのためには当初(LSに)ご提案いただいたように訓練の曜日や時間設定も変えるなどの工夫が必要だと認識しています。今後も毎年ワーキングで各班から課題を出してもらって、確実にPDCAを回せるようにしていきたいです。

最終的には大学としてさまざまな危機に対応できるBCPを策定したいと考えていますが、まずは大規模地震の発生を想定して通常通り授業を再開できるところまでが最優先です。地震で一本筋の通ったものができあがれば、応用して他の事象にも対応できると思っています。一つの重要なポイントとして、仮復旧から本復旧に至る段階のフェーズをしっかり固めていかないといけないのですが、まだ十分な議論ができていません。例えば帰宅困難者をどこに集めてどう対応するかも不明確です。

大学という立場上、近隣地域の被災・復旧状況との兼ね合いもあります。学生でも被災している人もいるでしょうし、その方々の心情も汲むと大学の各機能が復旧したからと言って通常通り授業を始めてよいのか、なども判断に迷うところです。授業再開の条件についても、交通機関の運行が通常に戻ったらOKか?などと漠然と想定していますが、まだまだ明確ではありません。この点についても今後詰めていくべき学内/学外の諸条件に関する意見交換はLSさんと多少させていただいたので、継続して検討していく予定です。

繰り返しになりますが、まずは地震の想定をもとにきちんとした一本の軸を作りたい。そのためには防火・防災マニュアルの改訂版を早急に完成させなくてはなりません。これからは水害を想定することも必要だと認識しています。近くには川もありますし、学内には地下に多くの設備を設置しているため、一旦浸水するとかなりダメージは大きくなります。今回は感染症も発生しましたし、他にも想定される色々な事象に対してしっかりと対応を考えていきたいですね。

――本日は有難うございました。

担当コンサルタントから

コンサルティングを行う外部委託業者の選定にあたり、お客様から提示されたRFP(提案依頼書)の業務の大きな柱は「訓練の検証」と「防災マニュアルの改定」の2つでした。

私たちはその業務に留まらず、「学内の各組織が主体的に関われるマインドセットと仕組み作り」を加えたご提案をしました。今後も継続的に防災対応の質を高め、実践的にしていくためには、一部の方々が必死になって毎回トップやメンバーを巻き込むやり方では早晩行き詰ってしまう、と考えたからです。

事務局の皆さんとご相談しながら、ワーキングの初期段階でメンバー全員に危機意識を高めるワークショップに参加していただくこと、訓練後の振返りを従来のような各班からの文書による取りまとめから、集合によるディスカッションを通じたAAR(After Action Revue)に変えること、を決めました。効果は期待以上だったとのことで、お客様も私たちも翌年度へ繋がる確かな手ごたえを得ることができました。

訓練については、事後の評価・検証のみならず、シナリオ策定の段階から積極的に加わらせていただきました。

前年度からの改定案の中で最も大きく変更した点は、各班から危機対策本部への情報連絡方法でした。これまで通報連絡班のメンバーが本部と各班を走り回っていたやり方から、各班からの連絡を受ける役割のリーダーを、本部に配置する体制に変えたことで、情報連絡の慌ただしさと混乱がなくなりました。

実はこの体制案は、班の検討段階から上がっていました。大きな変更を伴うため、実施すべきどうか判断がつきにくかったとのことでしたが、私たちのアドバイスで今回、実施に踏み切りました。新たな課題も見えてきましたが、大きく一歩進んだと受け止めていただけたように感じています。

現在の防災マニュアルは、今回ご支援をさせていただき、ほぼ完成形に近づきつつあります。ただ、本格的な復旧となる授業再開に至るBCPの策定までは更なる検討が必要です。授業再開を判断する条件は、社会インフラの復旧だけでなく、大学ならではの状況を踏まえねばなりません。災害や危機事象が多様化する今日の情勢において、どのように想定を広げつつ、対応を確立していくのか。ゴールのない道のりですが、今後もお客様の理想と課題に寄り添いながら、専門的なアドバイスのできる支援者として、引き続きお役に立ちたいと考えています。

コンサルタント 三浦崇
シニアコンサルタント 青木朋子

 

 

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