コラム

女性活躍の一丁目一番地 ~何を前提とすべきか

1.はじめに ~不思議な「女性活躍」

女性活躍推進が叫ばれてから、もうかなりの時間が経過しています。男女雇用機会均等法が最初に成立したのは昭和60年(1985年)ですので、実に30年以上も前から社会的に取り組んでいる課題となります(2015年には女性活躍推進法も可決されました)。

一方で、不思議なことにこの「男女平等」という考え方は、職場において建前上は広がっていても、実質なかなか理解を得られていないのではないでしょうか?それは男性側だけではなく、女性側からも懐疑的な目で見られていることもあり、一体誰のために何をやっているのか、不思議な気持ちになることもあります。

今回は改めて「女性活躍」にスポットを当て、そもそもどういうことを念頭において取り組んでいかなければならないのか考えていきたいと思います。

2.そもそもの必要性は何か?

そもそもなぜ女性活躍が求められているのでしょうか?もちろん、不必要な男女差別をなくしていこうという取り組みであることは間違いありませんが、背景には社会の構造的な変化があります。

まず第一に、日本経済が成熟化し、価値観が多様化する中で今まで通りのことをしていては成長できないことが挙げられます。モノ消費からコト消費へとも言われますが、何らかの新しい発想でイノベーションを起こしていかなければならないこと、いうなれば経済の質的変化が求められているということです。そこで従来にない「女性」という視点を経営に取り入れたいと考えるようになりました。

二番目はより直接的です。少子高齢化、生産年齢人口の減少が進む中で労働力をいかに確保するかというのが大問題だということです。経済の量的な変化といってもよいですが、そこで女性という資源にスポットが当たり、生産活動に活用したいと思われるようになったということでしょう。この多様性の確保と労働力の確保という2点が「女性活躍推進」の主な動機となりましたが、この点への理解不足が日本において女性活躍推進が進まなかった大きな要因であろうと思われます。

一方、企業にとっても女性活躍や働き方改革は重要なテーマです。団塊の世代の高齢化が進み、男性であっても介護離職が増える中、男女問わず制限のある働き方を認めなければ現状の労働力も確保できなくなります。また、女性が働きやすい職場環境はもはや採用競争力に直結しており、「今の若い者は甘い」と言っているだけでは優秀な人材を採用できなくなるでしょう。「働きやすい職場」や「やりがいのある職場」は日に日に注目されており、労働環境の充実度が企業イメージや顧客の購買基準の一つとなっていることを考えれば、女性活躍に対応しないことは、企業の成長戦略からしてもあり得ません。

3.「登用」と「両立」の二本立て ~どちらも重要

女性活躍推進は「女性の登用」と「育児と仕事の両立」の二本立てで行われます。育児と仕事の両立を支援するためにも、女性管理職の登用を増やすことが実際上必要になるともいえるでしょう。

なお、一般に「入社3~5年目の壁」と呼ばれるものがあり、この時期に多くの人は仕事上の壁にぶつかります。そのとき男性には「この壁を乗り越えたい」と思わせるような憧れの上司や先輩が多く存在しますが、女性管理職、特に結婚や出産を経て仕事を続けている女性管理職はほとんどいないのが実情です。女性自身も含めた暗黙の前提として、「出張・転勤・残業がない代わりに、出世もしない部署」が結局は働きやすいという雰囲気が強くなっているのではないでしょうか。株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長は、「女性活躍を進めるには、社内に多くのロールモデル、管理職に3~5割の女性を入れていくことこそが必要なのです」といっています(小室淑恵『女性活躍 最強の戦略』)。

こうした女性活躍推進は女性だけでなく男性側の理解、そして上司の理解が必須になります。社内で研修を行う際は、それぞれの対象者に対して強調すべき事柄が異なる点にも注意する必要があるでしょう。

研修対象領域

4.「女性ならでは」の傾向を押さえる

女性活躍推進には女性によく見られる傾向を理解して、女性の立場に立つこと・女性の思いを理解することが非常に重要です。相手にも感情や事情がある以上、一方的に企業側の思いだけを伝えても成功は難しいのです。

(1)長期的なキャリアを描くことが難しい

一般に男性社員は〇年後に課長、部長・・・と直線的なキャリアをイメージするのが簡単です。一方で女性は結婚、出産、育児、夫の転勤など、予測不能な(かつキャリアの断絶を生む)イベントが多く、長期的なキャリアイメージを持ちにくいものです。

(2)評価をネガティブにとらえてしまう

男性社員は大きな成果を出した場合、素直に「自分の手柄だ」「自分が頑張ったからだ」と思える傾向にあります。一方で、女性はあまり自分に自身が持てないため、周囲から高い評価を受けると「何かの間違い」、「そのうち化けの皮がはがれてしまう」などといった罪悪感を持ちがちということも指摘されています。フェスブックCOOのシェリル・サンドバーグは著書『リーン・イン』でこれを「詐欺師症候群」と呼んでいますが、男性陣には分かりにくい感情ではないでしょうか。

(3)社内情報を集めるのが難しい

男性陣は(今は減ったかもしれませんが)飲み会やタバコ部屋、ゴルフコンペなど、所属部署以外にも社内ネットワークを築く機会が多くあり、スムーズな情報収集・情報交換ができます。一方、例えばワーキングマザーなどはすぐに帰らなければいけないなどの事情もあり、人間関係が狭くなりがちです。結果として社内情報にも疎くなってしまい、情報がスムーズにはいっていかないということになります。

(4)上司が踏み込んだ評価・指摘をしない

今のところ上司は男性が多く、男性の部下に対しては率直に強み・弱みの指摘や今後のキャリアに対するアドバイスもできるものです。ストレッチした目標を与えて成長の機会を提供することもあるでしょう。一方で女性の部下に対しては上司側もどう接してよいか分からず、面談時も当たり障りのない内容で終始しがちでもあります。結果として、「あまり期待されていない」と部下にやる気を奪ってしまうこともあるでしょう。

5.女性活躍の難しさと推進のポイント

女性活躍は働き方全体の大改革であり、男女ともに理解を得ることが難しいものです。まだまだ「女性は●●だから」という固定観念が強いでしょうし、女性側も「そこまで責任を持ちたくない」といった自己抑制が強い傾向にあります。男性社員から見るとポスト競争の倍率が高くなるように見えてしまうこともあるでしょう。

また、女性自身にとってひとくくりに「女性活躍」と言われても違和感がある面もあります。育児・介護と仕事の両立の難しさは各家庭によって異なるわけで、「あの人にできるからといって私にできると簡単に言わないで」ということは否定できません。女性活躍を個々人に落とし込む段階で個別論が必ず出てくるということです。単純にロールモデルに話をさせても、「あそこは両親が近くにいるから」「あそこは旦那さんの理解があるから」「あそこは子供が1人しかいないから」と違う理由はいくらでも挙げられるものです。男性に対しては「男には分からない」、女性に対しては「私とあなたは違う」ということで、結局はその人本人に「もっと活躍の場を広げたい」と思ってもらえなければ意味がないのです。

そのような中、女性活躍を推進するポイントは何でしょうか?

(1)女性活躍は女性だけのものではないということ

よく「バリアフリーは障がい者だけに優しいが、ユニバーサルデザインは全員にやさしい」と言ったりしますが、女性活躍も同じです。「女性活躍」といってはいますが、中身は男性にも重要なもの。今後は介護や育児、障害など働き方に制限をもつ男性も増えてくるわけですから、「女性だけでなく、全員が活躍できるための仕組みづくり」なんだという周知徹底が必要です。

(2)「量」から「質」への転換が目的だということ

女性活躍の背景に少子高齢化や日本経済の成熟化があるのは上述の通りです。単に労働力を確保したいだけではなく、女性ならではの視点が今後の企業の成長に必須であることを伝えることが大切です。「女性も男性と同じように働け」ではなく、「あなた方の力が必要だ」「男性と違うからこそ必要なんだ(男性と違ってよい)」という気持ちを伝えたいものです。

6.おわりに

もしかしたら「女性活躍」という言葉がよくないのかもしれません。一億総活躍ではありませんが、全員がその才能を発揮してよりよく生きることが目指している姿なのです。もちろん社会の成熟化や労働人口減少が直接の引き金かもしれませんが、それによって皆が活躍できる良い社会、良い企業を生み出していけるとすれば、それは進歩といえるはずです。

是非皆さんの会社でも、再度「女性活躍」を見直していただき、目的や進め方、押さえるべき前提を意識してブラッシュアップしていってほしいと思います。

参考文献:小室淑恵『女性活躍 最強の戦略』(日経BP)