コラム

DXの進め方 ~定義・プロセス・障害までの推進ポイント

1. DXの定義

「DX(ディーエックス)」とは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略で、デジタルトランスフォーメーションとは、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念です。その意味は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」というものです。

そして日本では経済産業省が、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。

2. DXが必要な背景

2018年、経済産業省は「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」を公表しました。これらのレポートではなぜ日本はDX化を推進しなくてはいけないのか、どのように実施していくべきなのかが書かれています。
経済産業省がDX化を推進する背景について解説していきましょう。

2025年問題「2025年の崖」

経済産業省が「DX推進ガイドライン」を発表した同じ年に、「2025年の崖」という問題を別に発表したレポートの中で提起しています。「2025年の崖」とは、2025年問題のひとつで、日本企業のシステムが抱えている課題を原因として大きな経済損害が2025年から向こう5年間にわたり起こると予想されています。

日本企業はそれぞれの部門で独立したシステムを使っていたり、複雑なカスタマイズを重ねたシステム構築をしていたりする傾向があります。複数にわたりカスタマイズされたシステムはどんどん複雑化しています。

複雑化し扱いづらくなったシステムは「誰も使い方がわからない」という状態になってしまう、いわゆるブラックボックス化が進みます。
ブラックボックス化したシステムは使われなくなり、生産性がないのにもかかわらず、維持費だけがかかり企業の成長の足かせとなります。
足を引っ張ってしまうブラックボックス化したシステムから脱却するためにも、DXの推進は各企業で進めていくべきだと強く経済産業省は訴えています。

3. DXを進める前に知っておくべきこと、意識すべきこと

推進するために意識するポイントは大きく3点あります。

①DXはIT部門のIT化レベルではなく、事業戦略として位置付ける

DXとIT化を明確に切り分けられている企業は多くないと思います。IT化は既存の業務をITに置き換えることで、既存事業の効率化を図ることが主たる目的だと言えますが、DXは事業全体の変容を引き起こすことが目的とされます。従いまして、同じレベル間で検討すべきものではありません。

②DXの構造理解

IT化とDXの違いをもう少し詳しく見ていきましょう。経済産業省のレポートでは以下の段階で変容していくと言われております。

  • デジタイゼーション:アナログ・物理データのデジタルデータ化
  • デジタライゼーション:個別の業務・製造プロセスのデジタル化
  • デジタルトランスフォーメーション:組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革

引用:経済産業省:DXXレポート2中間取りまとめ (概要)
2018年12月28日 デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html

IT化はデジタライゼーションに分類されるものです。まずは、IT化とDXの違いを社内で定義づけることが重要です。

③DX認定のレベル

デジタルガバナンス・コードに沿ったDX推進施策に関して経済産業省はDXの推進度合いにあわせて認定しています。この認定により取引先や仕入れ先がどのような取り組みをしているのか理解でできるとともに、取引先の評価指標にもなりえます。DXのレベルにより、国全体での評価推進が開始されていることを認識する必要があるでしょう。



引用:経済産業省 産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進施策について
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx.html

4. DXの進め方|具体的な6つの手順

つぎに、DXをどのように進めるべきか、手順に沿って具体的にみていきましょう。

①手順1:現状の調査(DX推進に関する自己診断)

経済産業省とともにDX化を推進している独立行政法人情報処理推進機構がDX推進指標を出しています。まずは自社のDX推進がどの程度なのか現状を把握するために指標を活用し自己診断してみましょう。
https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html

②手順2:DXに関するビジョン・中期経営計画の策定

DXは事業変革を伴うため、DXに関してどのようなビジョンを持って進めていくのか、中期経営計画とどのように連動しているのか、単なるデジタル化と混同してしまわぬように会社の経営戦略との結びつきを社員全体が共有できるように明文化することが大切です。

③手順3:DXロードマップの策定

手順2によって、DXの方向性を明確にした後、どれほどの期日でどのような状態になっているのか、わかりやすいロードマップが必要です。ロードマップにより、株主や従業員との共通認識が持てるようになります。

④手順4:DX推進体制の構築

ロードマップを準備したうえで、DXを推進する兼業ではない専業の組織体制を構築することが重要です。兼業だと(ですと)つい本業の忙しさを理由にDX化に関する業務が後回しになりがちです。組織の立ち上げ時は少人数でも良いので、専業の組織体制を構築されることをお勧めします。

⑤手順5:実行

中期経営計画とそれにひもづくロードマップの設計・体制を構築した後は、実行あるのみです。
実行について大切なポイントは、ロードマップで大きなマイルストンを設計しているものを年次単位、月次単位、週次単位に細かく分解することが重要です。
つい大きなゴール設定があると、日日の活動での成果が見られず、数ヶ月経ったときに、ロードマップで決めたマイルストンとの乖離が生じてしまい、長期的な目標と埋まらないギャップになりがちです。大きなマイルストンを達成するためにゴール設定を小さく分解することが必要です。

⑥手順6:PDCAを回し続け、ビジネスモデルの変革まで繋げる

小さなゴール設定を実行した後は、ひたすら実行して振り返りを行い、さらなる実行のヒントを得ることが大切です。DXは一朝一夕で成果が出るものではありません。とても根気がいるものです。
短期的な活動の成果が長期的な成果につながります。そのためにはDX化に取り組んでいるメンバー自身が目標に近づいている実感を持つことで、モチベーション維持にも繋がります。

あらためてDX推進についてどこから取り組めば良いか、経済産業省のガイダンスも有効にご活用ください。

参考:経済産業省発行のDX推進指標とそのガイダンス
https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/ug65p90000001j8i-att/dx-suishin-guidance.pdf

5.DX推進のプロセスと並行して実施すべきDX人材の育成

DX推進に欠かせないのは「推進する人材」です。ここでは人材育成について解説します。
※別コラム「DX人材とは?求められる職種・スキルまで全解説」 でも述べていますので参照下さい。
https://www.ntthumanex.co.jp/column/dx-humanresources-commentary/

①DXマインド・文化の醸成

DXに関する企業全体のマインドを高めていくことが重要です。
IT化とDXが明確に切り分けられていないことで、年単位でプロセスを踏む必要があるため、なるべく早めに取り組み始めることをおすすめします。

②DXをリードする人材の採用・育成

A)DX人材の類型化と採用
DX化を進めていくなかで、どのような人材が必要なのでしょうか。
経済産業省とともにDX化に関する専門機関として独立行政法人 情報処理推進機構が2022年12月に提唱したデジタルスキル標準では5つの人材類型に分類されます。

  1. ビジネスアーキテクト
  2. デザイナー
  3. データサイエンティスト
  4. ソフトウェアエンジニア
  5. サイバーセキュリティ

引用:https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about_dss-p.html
独立行政法人 情報処理推進機構

デジタル人材については、量と質ともに不足しています。厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和2年2月分)」によると、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は5.88倍と高い数値を示しています。このような人材の囲い込みの採用施策として、企業は優秀なデジタル人材に特別な給与体系を用意するなどの動きが活発になっています。

B)育成の課題
日本のように長期雇用を前提とし、人材の流動性が比較的低い状況においては、社内のリスキルを充実させることが極めて重要です。しかし、現在の日本企業においては、DXに必要なスキルの具体化や可視化がされていないため、何をリスキルするべきかを社員に明確に提示できていない企業が多く存在します。

加えて、従来型のベンダー企業の人材が学ばない原因としては、学んだことを実践する場が無いことが挙げられます。特に自社サービスを提供するユーザー企業では、自身が学習したスキルを自発的に使うことができ、それにより手ごたえが感じられる環境があるが、ベンダー企業のようにクライアントの仕様に沿った開発を行う受託開発においては難しいと言えます。

C)スキル等の可視化不足
日本企業は、DXが必要であるという問題意識は有していますが、DXを進める上で必要な具体的なスキルが分からず、求めるスキルや人材の明確化が行えないため、DXに十分に取り組めていません。

また、個人が新しい分野に向けてスキルアップしたくても、どのようなスキルを習得すれば、どのような職種・仕事に就けるのか、という点がよく分からないため、目標が描けない状況になっています。
特に、近年、IT・デジタル分野の技術や職種は、ますます広がっており、全体像が分かりにくくなっています。現在の自分の業務やスキルがどのような位置づけにあり、何を学べばどのようにキャリアアップしていけるのかを示すことで個人のモチベーションを高めることができます。

6.DXを進めるうえでの障害

ここまでDX推進の手段をみてきましたが、実際に推進障害となりえることを挙げてみましょう。

①日本の経営者がデジタルに関する理解の欠如

デジタルに関する理解不足とともに、経営層がDXを推進するよりも目先の短期的な利益を優先する傾向にあることが、DXを阻む原因の一つと考えられます。
加えて、経営者のITリテラシーが低いことにより、どのような投資が必要なのか、それに見合うリターンは得られるのか、と言う視点で意思決定ができないこともDX化を推進する障害になっていると考えられます。

②働き方改革との時間的な両立

DXの進め方手順の中で専属部署を設置することを推奨しましたが、現実は兼業で取り組まれている企業がほとんどではないでしょうか。その際に課題になるのがDXに取り組む時間の壁です。
本業の合間にDXに取り組もうとした場合は、時間が限られているため、DXが進みづらい実態があると思います。兼業で取り組む場合には、柔軟な働き方ができるようにするなど、働く時間を本業と兼業を分ける配慮が必要だと言えます。

③既存のシステムとの連携

既存システムをDX化して事業全体との統合を図ろうとされる企業は多いと思います。その際に課題になるのは、既存システムがブラックボックス化されていることで、現状のシステムを統合できないことが障害になります。もし、現状のシステムの仕様がわからないことがあれば、いまから明確にされることをお勧めいたします。

7.DXを進める上でよくある失敗パターン6つの注意点

取組んだものの、上手くいかない・失敗してしまった、そういった6点をご紹介します。

①業務の効率化や生産性の向上をゴールにしてしまう

DXとIT化がどのようなことを目的としているのか、その定義が明確になっていないことがあります。デジタルという言葉だけが一人歩きしてしまいIT化による生産性向上が目的になってしまう場合がありますので、DXとIT化の定義を明確にして区分けすることを推奨します。

②経営層がコミットしない

経営層がDXに関する理解不足で、IT部門の取り組みになってしまうことがあります。そうすると責任の所在はIT部門の部門長になってしまいます。経営層のITリテラシーを高める必要はありませんが、DXは事業変革であることを経営層が認識することが極めて重要です。そこが正しく認識できれば、必要な人材の配置や予算投下が可能になります。

③DX推進部署だけで取り組んでしまう(社内一丸となって取り組まない)

DXの必要性を経営層が理解できていなければ、従業員がDXの重要性を理解することは困難でしょう。なぜなら、一般的に経営層より従業員の方が経営意識は薄くなるからです。経営層に対するDXの重要性に関する啓蒙活動も必要ですが、従業員に対する啓蒙活動も併せて重要になります。

④DXをリードする役に適切な権限・環境を与えない

DXを推進する人材はとても採用が困難です。理由はどの企業もDX推進が急務だからです。そのような採用難のなかで採用されたDX人材に対して、必要な権限や環境を与えなければどうなるでしょう。
DX人材は自分自身の役割と責任と権限のバランスを常に見極めています。パフォーマンスを発揮するために所属する組織での責任や権限を与えられなければ、DX人材はその企業に属する意味を見出しづらくなります。
DXが企業の事業戦略なのであれば、推進者に責任と権限をあわせて付与できているか、この機会に見直しされることをぜひお勧めいたします。

⑤必要人材を集めるために適切な人事制度になっていない

  1. 給与体系
    DX人材が企業間で争奪戦という話は触れきました。採用が難しいということは給与が釣り上がります。つまりDX人材は一般の給与体系にはおさまらないことが一般的です。
    特別な給与体系を用意されることと同時に、一般社員に対して給与の納得感を与えることが重要です。DX人材は企業の事業変革をおこなっているのですから、給与体系が異なって然るべきである事を一般社員にも理解を促せねばなりません。
    その際に、先ほどの責任と権限がセットになっていなければ、優れた能力を有するDX人材が持てるパフォーマンスを発揮しないまま埋もれることが想定されます。
    効果が発揮されない、そういったことがないよう全社的にDX人材をどう位置付けるかが大切です。
  2. チャレンジできる人事制度
    給与体系とも連動しますが、画一的な評価制度はDX人材に対しては向きません。DXはこれまでに経験したことがない事業変革に取り組んでいるため、とても挑戦的な取り組みをしているからです。チャレンジングな取り組みを奨励する取り組みを評価する人事制度が必要となります。
    そのためには、全社的に汎用的な人事制度とは別に職務としてのチャレンジングな評価制度の2つの軸を併せ持つことが大切です。

⑥必要な予算を確保できていない

事業変革をするためには、それに見合う投資が必要です。
しかしながら、DXとIT化の区分けができていないことにより、投資額が事業戦略を変革するレベルには至っていないケースがあります。
まずは、DX化が会社を挙げて必要なことなのかどうか、IT化とどう切り分けるのか、既存事業の売り上げを伸ばしていくためにどのようなことが必要で、いくら投資できるのか、このような経営視点での検討を全社的に行うことが極めて重要です。

8.まとめ

今回はDXをどのように推進していくか、その進め方について考えてきました。
繰り返しになりますが、IT化とDX化は異なることを正しく理解することが重要です。DX化は今の事業全体を変革していくための全社が取り組むべき課題です。
そして、その背景には日本が直面している2025年問題と切っても切り離せません。
短期的な売上は軽視できませんが、長期的なDXの推進がどの程度検討されているか、この機会に見直しされてみてはいかがでしょうか。