コラム

攻める業務フローを作る!
~改めて業務の「見える化」を考える

1.はじめに

皆さんの会社では「業務フロー」はありますか?

「今更何の話だ」と思われる方も、「いや実は、うちの会社にはないんだよな・・・」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

業務フロー自体は業務マニュアルを作る過程で作成されたり、あるいは上場審査やISO対応で作成されたりするものです。ただ、単純に今の業務の流れを追うだけになっていたり、作りっぱなしになって改善されていなかったり、ということが起こりがちです。

しかし、業務フローは今の時代、「戦略の変化・進化・深化」を考えるためのファーストステップでもありえる存在です。

今回は「攻める業務フロー」と題して、改めて業務フローを見直すメリットについて考えていきましょう。

2.戦略が変われば業務フローも変わる

業務フローとは何かと改めて考えると、「現場で行っている業務プロセスを可視化するために作成するフロー図」ということになるでしょう。一般的にはスイムレーンと呼ばれる枠で部門や部署の作業領域を表現し、各業務を矢印でつなぎ、業務プロセスを見える化します。

まず業務フローをきちんと作る必要がある初期の段階というのは、そもそも「誰がどの仕事をやっているか分かっていない」、「会社の業務プロセスの全体像を把握できていない」といった場合が多いものです。

  • 各組織の役割が不明確で、同じような機能が各部署に散在している
  • 業務が組織ではなく、個人に紐づいている
  • 業務項目が整理されておらず、ベテラン/新人の区別なく仕事が割り振られている(担当者が抜けると新人で補充)
    ・・・

このような場合、まずは業務全体を見える化して、そもそもどんな業務があるのか、それは効率的な流れになっているのかを確認する必要があります。特に業務が人に紐づいている場合、人が異動すると業務も一緒に移ってしまい、結果としてなぜその部署でその仕事をやっているのか不明確になるケースが多く見られます。その経緯を知っている人がいるうちはまだよいのですが、退職などを経て誰も経緯が分からなくなると、どんどん業務フローが複雑になっていくでしょう。

なお、業務フローを作成することでそういった組織が抱えるリスクも明確になるということで、内部統制においても業務フローの作成は必須になっています。いわゆる「三点セット」ですが、「業務フロー図」は「業務記述書」、「リスクコントロール・マトリックス(RCM)」とともに上場審査などで作成されています。

さて、ここではそういったリスクコントロールのためだけではなく、外部環境の変化が激しい現在において、業務フローの見直しが更に重要になっているというテーマを扱いましょう。業務フローは当然、会社のバリューチェーンに基づいて整理されるべきであって、その会社の戦略が変わる場合、必然的に「新しい業務フロー」が必要になってきます。例えば、中期経営計画に従って新しい機能がバリューチェーンに追加される場合や部署をまたぐ業務を整理しようとする場合など、業務フロー改めて見直す必要があるでしょう。

以下、2つのパターンを考えてみます。

(1)企業のもつ機能を戦略的に変える場合

例えば、今までは輸入品だけを売っていた家具の販売会社が、これからの競争力強化のため、製造機能を持とうとしたとします。そうすれば、今までは単純に「仕入れて売る」というだけであったところに「原材料の調達」「在庫管理」「商品企画」など新しい機能を追加しなくてはいけなくなるでしょう。単純に製造機能を追加すればよいわけではなく、営業の在り方も、今後は単にプッシュで売るだけではなくなります。

  • どのようなニーズを顧客は抱えているのか、その潜在ニーズをどのように拾い上げて顧客情報として蓄積するのか
  • 顧客情報をどのようにデータとして活用し、商品開発につなげるのか
  • ニーズヒアリングができる営業の人材育成をどのように行うのか
    ・・・

など、業務の内容も質も大きく変わるはずです。

あるいは、昨今の原材料の高騰や半導体不足等の中、戦略在庫の持ち方も変わってきていますから、もし今まで「受注してから発注する」といったリスクのない経営をしていた企業が「一定の戦略在庫を抱える」という方針に切り替えた場合、これもまた業務フローに大きな変化をもたらします。戦略在庫の量の見極めをどのように行うのか、運転資金が増大することに対して財務部門とどのように調整するのか、倉庫の場所などのロジスティクスをどうするのか、新しい業務フローをしっかりと整備しなければなりません。

このようなバリューチェーンの変化は企業の経営戦略に紐づくもので、大きな方向性の中でキビキビと業務フローを見直して対応すべきものです。そのためにも現状の業務フローがどうなっているのか、どう組み替えることができるのか、といった全体像の把握がより重要になっていくでしょう。

(2)デジタル化・DXにより仕組みが変わる場合


昨今のデジタル化の流れで、多くの企業が「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」にいそしんでいることと思います。単純な事例で、基幹システムを入れ替えてデジタル化を推進するといった場合でも、今の業務をシステム側に合わせていく必要があり、現場としては大きな影響を被るものです。経理のシステムが変わる中で支払の業務フローは変わるわけで、ここも事前に調整していかなければいけませんし、システム導入の結果として手間が増えてしまうなどでは本末転倒になってしまいます。

また、そもそもDXというものは、もし最新のデジタル技術を用いて今の企業活動をゼロから構築するとすれば、どのようなフローになるか、という大きな構想力が必要なものです。もともとビデオのレンタルをしていたネットフリックスがいまや世界的な動画配信サービスを行っているように、提供している価値が同じであっても、デジタル社会においてはやり方によって事業の広がりが根本的に変わってきます。もし過去のレガシーな仕組みを維持せずに今の発想でイチから業務を構築できるとすれば、全てのシステムは数名で管理できるようなシンプルなものになるかもしれません。受注チャネルもFAX・メール・電話・Web・EDIなど複数に分かれるのではなく、シンプルにWebからの受付のみとできるかもしれず、競争力向上の基礎になるかもしれません。

最新技術を用いたDXを行うことは、業務フローを劇的に変化させることにつながります。今の業務フローではどこに工数がかかっているのか、それは今の時代に本当に必要なものなのか、部署をまたぐような業務をデジタル技術で解消できるものではないのか、など見直していく際にも業務フローの分析は役に立っていくでしょう。

総じて、業務フローを今の業務の改善のためだけに使うのではなく、よりダイナミックな戦略実現のツールとして考えていく発想が必要であろうと思います。誤解を恐れずに言えば、業務は「決まっている」のではなく、「変化し続けていく」ものであって、いかにダイナミックに進化させていけるかも、正確な現状把握から始まるのです。

3.業務フロー作成の実際 ~目的とポイント

業務フローの作成においては目的を明確化することが重要です。それによって業務フローの細かさ(粒度)が大きく変わってくるからです。

  • 経営的に見るためのもの(モノ、カネ、情報の流れ)
  • 採用・育成のためのもの
  • 顧客との交渉に用いるためのもの

今回は経営的に見るためのもの、という観点で記述していますが、上記の目的によって何をどれだけの粒度で作るべきか、どこまでの全体像を書くべきかが変わってくるでしょう。

その他、どのような粒度で作るのか、顧客によって例外パターンがあるようなケース、何パターンのフローを作るのか、など実際はいくつか注意点がありますので、ご自身でも確認してみてほしいと思います。

意識しておいた方がよい点は、現場に業務フローを作ってもらったとしても、本当の課題は業務フローの中にはない可能性もあるということです。例えば、もし在庫管理に課題があったとしても、営業活動の中で適宜在庫が自動発注されるような仕組みの場合、「在庫管理」というフローは会社の中に存在しない可能性があります。その場合、どれだけ現場の業務フローを見つめたところで、そのフロー自体に課題を見つけることはできません。「経営上、本来あるべき業務フロー」を考えることは、現場から一歩引いた広い視点や戦略的な発想が必要になるということです。

4.おわりに

今回は「攻める業務フロー」ということで、業務フローを戦略に基づいてダイナミックに見直していく必要性に触れてきました。業務フローというと地味な作業に思えるかもしれませんが、こういった企業としての足腰がしっかりしてこそ、次の飛躍につながるアクションが打てるものです。

また、今後は人材獲得に際しても、こういった何をやるのかが明確にない会社に優秀な人材は来なくなっていくでしょう。全てベテランの頭の中に暗黙知があって、「見て盗め」というのでは時間がかかりすぎますし、再現性の点でまさに「課題」となるでしょう。

是非皆さんの会社でも、改めて「業務の見える化」にトライしてみませんか?