コラム

SDGsを担う人材育成とは~そのポイントとステップ

1.はじめに

SDGsは今となっては「社会の常識」という認識が一般的になりつつありますが、知っていることと理解をすること、さらに実現のために行動することとでは、天と地ほどの差があります。

持続可能な開発目標(SDGs)は2015年9月の国連サミットで採択され、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする17の国際目標が示されました。17目標は国際目標ですので、中には日本においては縁遠いと感じるものもあるでしょう。それぞれの目標を理解するはもちろんとして、背景や意義を理解し、どれだけ自分事として自社の経営に引き寄せて考えられるかが重要です。

ではどうすれば「自分事」として考えられるのでしょうか?

人は社会で起きていることや他者との関係性の中で、自分の存在が少なからず影響していると感じる場面があると「自分事」として捉えて、対象に対しても関心を持ちやすくなります。この性質は、システム思考という考え方で説明ができます。
組織開発の参考書として読まれるピーター・M・センゲ著『学習する組織』の中で、システム思考は、システムの「パターンの全体を明らかにして、それを効果的に変える方法を見つけるための概念的枠組み」と説明されています。ここでいうシステムとは、相互作用する要素の集合体のことを指し、人やチーム、組織・社会なども含まれます。

私たちは一人で生きているのではなく、一人一人が社会の担い手であり、他者と関わりながら生きています。枠を広げると、人間以外の動物や植物、自然界の様々なものと常に影響を与え合いながら生きていることに気づきます。つまり、地球の裏側で起きている出来事は決して他人事ではなく、つながりがあり、まわりまわって影響を与え合う自分事なのです。
ともすればスローガンやパフォーマンスになりがちなSDGsへの取り組みを、自分事として捉えて、ビジネス文脈で理解し、自社の経営に結びつけて考えられる人材が求められています。
(外務省 説明資料より)

2.SDGsをビジネス文脈で理解する重要性

2021年の帝国データバンクの調査によると、大企業のうち5割以上の企業が、SDGsに積極的に取組んでいるという数値があり、たとえ一企業であっても社会を担う一員として国際目標に配慮した経営を行うことが重要で価値のあることだとする見方が、今後の主流となる可能性を示唆しています。SDGsに加えて、ESGも企業が取り組むべき課題として注目されています。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字で、この視点がない企業は消費者の信頼や、投資家の評価が得られないという状況になりつつあります。
会社として何が課題で何を目指すのかを、まずは経営トップ、管理者、そして担当部署、一般社員といった流れで浸透をしていくのが良いでしょう。

例えば、目標3「すべての人に健康と福祉を」であれば、社内改革として残業の見直しや、健康経営に取り組むなども具体的なアクションになります。目標12「つくる責任つかう責任」を身近なところで考えると、社内で出るごみの削減や、環境にやさしいオフィス家具を採用するといった環境整備なども、意識を高めるきっかけとなるでしょう。

いずれにしても、目標に対する自社の方針、その方針や目標を達成するための行動目標、アクションプランという形でチャンクダウンしていき、日々の業務や生活と関連性のある具体的・現実的な取り組みにすることです。自分たちの仕事が社会(世界)とどうつながっているのか、自分たちの仕事がどのような未来につながっているのかというシステム思考を持ち、自分事としてリアリティを持つことができなければ、スローガンだけに終わってしまいます。

SDGsを理解しビジネスと結びつけて考えた結果、意識変革や日々の行動改善が見られることは期待される効果ではありますが、それだけでは企業価値は高まりません。自社の課題を解決するにとどまらず、社会課題を解決するための事業の発掘や積極的なアクションまで取れるようになるのが理想です。

これから次々に社会に出てくるZ世代と呼ばれる若者は、サステナビリティへの感度がとても高いと言われています。実際、就職活動でSDGsの取り組みについて質問を投げかける就活生もいます。ビジネスにおいて近江商人の「三方よし」を理念に掲げる経営者は多いですが、これからを担う人材にとっても1つの指標とされる可能性が高く、もはやSDGsやESGは無視できないくらい重要性を占めていると言えるでしょう。

3.SDGsを担う人材に求められる資質やスキル

SDGsへの取り組みを自分事として捉えてビジネス文脈で理解し、自社の経営に結びつけて考えられる人材が備える資質とはどのようなものでしょうか。

①情報収集と選択ができ、自分の頭で考えられる(ノウハウ)

コンセプチュアルスキルとは、1955年に、ハーバード大学の教授として知られるロバート・カッツが「本質を見極め、活用するスキル」として提唱したもので、概念化スキルと訳されることもあります。簡単にいうと、抽象と具体を行き来して考えられる力です。木を見て森を見ずという言葉がありますが、コンセプチュアルスキルはまるでGoogleMapを使って指先一つで細部を見たり広域を見たり自由に行き来するかのように、木も見て森も見るようなイメージです。抽象と具体、客観と主観、直感と論理といった両極を観察・体験し、取捨選択を行い、本質を見極めます。
SDGsという広く大きな概念をさまざまな角度から見ることができ、社会の状況と自社の経営とを結びつけて考えられる力が必要です。

②前例にとらわれず、柔軟に変化に対応できる(マインド)

VUCAの時代に求められる人材像とも共通しますが、これまでの成功や常識では対応できない予測不可能な時代において、前例にとらわれず、柔軟性を持って変化に対応できる資質は欠かせません。前述したZ世代、SDGsネイティブ世代とも言えますが、その上のミレニアル世代、そしてこれまでの経済を担ってきた(そして今現在も社内で多数を占めている)ロストジェネレーション世代とは異なる時代を生きています。経済成長や競争社会における物質的相対的な豊かさを求める価値観ではなく、仲間を大切にし、常に世界とつながっていて、精神的絶対的な豊かさを好みます。
つまり、前例や過去の成功体験にとらわれていることは、SDGsをビジネスで実践するどころか、社内人材の活用や育成にまで悪影響が及ぶ恐れがあります。前例は前例として、参考にできるところは参考にし、その上で変化に対応していく柔軟性がポイントとなります。

③自社の課題や目標を明確化し、具体的な取り組みを行う(アクション)

ノウハウとマインドが備えられていても、行動に移すことができなければ意味がありません。自社の課題や目標を明確化し、事業計画を立てて具体的に取り組んでいくためには、課題発見力、企画立案力、事業推進力が必要とも言えるでしょう。まずは、既存事業がこれからの社会で受け入れられるものなのかどうか、17の目標と対立していないかを点検することも必要です。課題があれば修正を行い、不足があれば補うこともあるでしょう。
新しく部署を立ち上げたり事業を立ち上げたりする場合もあるかもしれません。目的や目標が明確なプロジェクトであれば、メンバーの意思疎通もはかりやすいと思われますが、見切り発車にならないよう、丁寧にチームビルディングを行いたいものです。経営トップの一声で部署がつくられ、メンバーが集められたところで、当の本人たちの意識が追いつかないまま、ということでは社内体制がサステナブルではなく、取り組みと矛盾してしまいます。

4.人材育成のポイントとステップ

SDGsを担う人材に求められる資質やスキルとして3つ挙げました。

①情報収集と選択ができ、自分の頭で考えられる(ノウハウ)
②前例にとらわれず、柔軟に変化に対応できる(マインド)
③自社の課題や目標を明確化し、具体的な取り組みを行う(アクション)

これらすべてを兼ね備えている人材がいれば良いですが、新たに教育・育成をしていく企業がほとんどでしょう。そこで人材育成のポイントとして2つ心得ておきたいことがあります。

1つは個別化です。
社内にはいろんな世代の社員がいて、価値観もさまざまです。現在、管理職を任されている世代がロストジェネレーション世代だとすれば、ミレニアル世代、Z世代といった2つの異なる世代のメンバーと共に取り組むことになります。そもそも受けてきた教育が違い、育ってきた環境が違うため、指導する側とされる側との理解が折り合わずに、ともすれば「ハラスメント」と言われてしまう恐れまで出てきてしまいました。

「仕事は背中を見て覚えるものだ」と思い込んでいる人が上司だと、事細かに説明をせずに部下や新人に仕事を放り投げておいて「任せている」と勘違いする人もいます。そこまで説明する必要があるのか、と思うほどに気長に手厚く指導することも、今の時代のやり方かもしれません。


世代の違いを前提として、それ以上に、一人ひとりの個性や価値観に寄り添った教育・育成をしていく必要があります。内発的動機(モチベーション・やる気の源泉)を理解して、相手が自ら動きたくなるような仕組みや仕掛けがあれば良いでしょう。 昔のように「会社の決定だから従え」という指導はもう通用しません。ルールはルールとしてあるとしても、個人の裁量に任せる部分や、運用に幅を持たせておくことで、離脱を防ぐことができます。

ポイントの2つめは持続化です。
SDGsに取り組もうとする企業の社内体制がサステナブルでなければ、本末転倒です。人材の即戦力化は望まれることではありますが、そう簡単に人は育つものではありません。草木や作物の成長のように、まずは栄養価の高い土壌が前提にあり、芽が出て、水や光を浴びてすくすくと育っていくのです。

今ここにいる人材が育つこと、そこにはどのような意味があるのか、どのような未来があるのか、といった長期視点も取り入れながら、持続可能な育成プランを考えましょう。

次に、成長段階に応じた到達点(ゴール)を決めておくことです。人は誰しも承認欲求があります。認められたり褒められたりして嫌な人はいません。自分は、何のために、何に向かっていて、どこまで進んでいるのかの進捗が可視化されると、つまづいた時に相談しやすく、挫折もしづらいでしょう。

最後に、ビジョンやゴールを含めた育成プランを立てることです。OJTやOFF-JT、オンラインの教材などさまざまな学習の機会があるでしょう。社内でのアイデアコンペや「ジャパンSDGsアワード」などを目標として、実践をしてみるのもモチベーションを高める仕掛けとなるかもしれません。

5.終わりに

SDGsへの取り組み、そして取り組みを担う人材の育成は、これから本格化していきます。2030年まであと8年となった今、「知らない」「できない」「関係ない」では企業の存続すら危ぶまれます。とは言え、まだまだ模索している企業が多いのも事実です。 この状況をピンチと捉えるか、チャンスと捉えるか。私たちの姿勢が問われています。社会の変化に伴い企業も変化していかなければならない事実を受け止め、できることから少しずつでも、いち早く対応、対策をしていくことが、17の国際目標を実現する大きな歩みとなることでしょう。