NTTLS 人材育成WEB

サービス一覧

Column

2022/07/22

ティーチングとコーチング ~相手の世界を変える人材育成の技術

1.はじめに

近年は企業の中でもコーチングが一つの流行です。皆さんの中にも部下指導のためにコーチングの研修を受けられたという方も多いのではないでしょうか。
しかし、そうはいってもよくわからないのがコーチング。今までの指導と何が違うのでしょう。ティーチング(teaching)とコーチング(coaching)は結局何が違うのか、悶々としながら取り組まれている方も多いように感じます。

今回は改めてティーチングとコーチングの違いについて踏み込んだ説明を試みます。コーチングの目的や本質的な難しさ、今自分がティーチングとコーチングのどちらを採用すべきなのか、そういった疑問を解消していきましょう。

2.ティーチングとコーチングの違いとは

そもそもティーチングとコーチングは何がどう違うのでしょうか。この点、「コーチ」という言い方があまりに一般的なために逆に分かりにくくなっているように思います。学校の先生に資格が必要なように、コーチも専門職であり、おいそれと簡単に行うことはできません。コーチという職業があることからもそれが分かると思います。

さて、ティーチングというものは端的に「教える」ということですが、語源的には「指し示す」「見せる」といった意味合いから派生しています。「やってみせ、言って聞かせて・・・」という山本五十六の言葉を思い出す方もいると思いますが、まさに先達が形を見せ、そして学ぶ、真似る、ということがティーチだといってよいでしょう。師が弟子に教える、親が子どもに教える、この世界には水が上から下に流れるように明確な上下関係が存在します。ティーチャー(teacher)に必要なものは知識や体験ということになるでしょう。

一方でコーチングはもともと「馬車」という意味のコーチ(coach)からきています。「目的地に連れていく」という意味合いで、そう書くとティーチに似ているように思われるかもしれませんが、具体的な手法を教えるというよりも、相手の内面を深めていくことで、本当のゴールや目標に気づかせることが本質です。コーチングの前提は人間の潜在的な可能性は無限であり、私たちにはまだ見ぬゴールを常に開拓し続けられるということ。そのゴールをコーチは知りませんし、そこに至る具体的な方法論を知っている必要も必ずしもありません。ポイントはそれを引き出し、そして新しいゴールを見つけた相手を鼓舞し、そこに向かう勇気を与えることです。相手は新しいゴールを見つけることで世界の見え方が変わるでしょう。この世界は上下関係ではなくお互いが対等です。したがってコーチは相手をクライアント(顧客)と呼び、市場経済の中で関係性が築かれます。クライアントはコーチにお金を払って、自分の目標達成のためのサポートを受けるのです。コーチに必要なものは、クライアントの現実やモノの見方を大きく変えうるような圧倒的な世界観であり視座の高さと言えるでしょう。

3.コーチングが必要な理由と根本的な難しさ

ではなぜ今、コーチングが企業で求められているのでしょうか。
それは結局、答えがわからない世界、正解がない世界になったからだといえます。ティーチングは正解がある世界であり、成功するための正しい型を伝承していくところに本質があります。先輩や上司の真似をしながらうまくなっていくことに意味があります。しかし、時代の変化が速く、成功体験がむしろ足かせになってしまう時代にどのようにティーチせよというのでしょうか。成功体験からは新しいイノベーションは生まれないのではないでしょうか。そういった問題意識から「もはやティーチできない」時代であるということです。

ではどうするか、と言ったとき、一つの可能性として社員一人一人が持つ無限の可能性にイノベーションのきっかけを見つけることが有効ではないか、と考えるのが企業でコーチングが流行っている理由です。それぞれの人がやりたいこと、自分の可能性を広げていく中で新しいビジネスチャンスに挑戦し、それを事業としていけないか、そのためにはとにかく自発的に挑戦させなければいけませんし、本人たちに殻を破る勇気を与えなければいけません。コーチは相手の可能性を引き出す役目を負っています。


しかしここに企業におけるコーチングの困難さがあります。多くの企業において、上司‐部下の関係は本来的にティーチングの上下関係にあります。上司の権力の源泉は、知識・経験の量が部下よりも多いという点にあるわけで、部下もそれがあるからこそ上司に対して信頼感を持つということも多いでしょう。特に日本企業では家族的な情のつながりも強いですから、都合よく「今から対等なコーチ-クライアント関係になります」といってうまくいくはずがありません。また、コーチは本来的に対価を払って自分で選ぶものですが、企業の場合は選ぶことができませんし、自分でお金を払うわけでもありません。本来想定されるコーチングの状況よりも遥かに難しいというのが企業の現場におけるコーチングなのです。

4.社内コーチングのアドバイス ~自由なゴール設定を!

では社内おいてどのようにコーチングを実践すればよいのでしょうか。上司の方は当然基本的なティーチもしなくてはいけませんから、コーチングだけで部下を育てることはできません。しかし気が付いたら今期の予算達成のための面談になってしまっているようでは、部下の可能性を広げることはできませんし、組織にイノベーションも起きないでしょう。ここでは3つ、特に重要な点を説明します。

(1)ゴール・目標は複数領域で設定する

まず1つ目のポイントは、相手の目標やゴールはいくつあってもよく、複数の領域で設定すべきということです。どうしても目標設定となるとビジネス上の目標であったり、組織目標のブレークダウンになったりしがちですが、コーチングの目的は第一に相手の個人としての目標達成ですから、会社の目標に縛られるわけではありません。しかし全く関係ない目標を出せというのも難しいですから、「目標はいくつあってもよいし、複数領域で立てた方が良い」と言うことでかなりハードルを下げることができます。また、部下の色々な目標を聞くことでその人の意外な一面に気づくかもしれませんし、それらの目標が会社の業務と相通ずることに気づくかもしれません。

(2)ゴール・目標は変わっても良い

目標達成というと、どうしても一度決めた目標にこだわってしまいがちですが、コーチングにおけるゴールや目標の意味合いは、「今の行動を変える」ことに尽きます。一歩踏み出して新しい行動を行えば、新しい情報が入ってきて別の目標に興味がわくかもしれませんし、もっと高い目標を目指したくなるかもしれません。それは一向に構いませんし、むしろそうあるべきだということを押さえましょう。その「もっと次に行きたい」という気持ちをサポートすることが部下のモチベーションを上げ、イノベーションにつながる発想になっていきます。

(3)部下との信頼関係を築く(心理的安全性)

そういった部下の可能性を広げていくためには、お互いに信頼関係がなくてはいけないのは当然です。この人には話しても良いな、と思ってもらえる関係性や雰囲気、最近の言葉でいえば心理的安全性を確保しなければいけません。まずは相手を理解しようとすること、必要もないのに教えるティーチングモードに入らないことを意識しましょう。

なお、ティーチングではイノベーションは生まれないのかと言えば、必ずしもそうではありません。型を何度も何度も繰り返して習得する中で「自分だけの型」を見出していく世界も存在します。それは職人の世界であったり、スポーツや武道の世界であったりを考えれば分かりやすいでしょう。型を破るためにはまず型を徹底的に磨かねばなりません。型なしと型破りは違うのです。ただし、これは様式・形式が洗練された世界の話であり、多くのビジネスの現場ではそこまでのノウハウをもっている人は多くありません。所詮は自分の成功体験でしかないものを相手に刷り込むというのは、やはり今の時代、危険性の方が高いように思います。

5.さいごに

ティーチングとコーチングの違いについて明確になったでしょうか。実際、その二つは全く異なるもので、使うべきノウハウも異なります。相手との関係性も、世界観も、目的も異なるのです。ティーチングは形から入るもので、新しい知識を教えることで相手の世界を変えていきます。極端な言い方をすれば、そこに目標やゴールは必ずしも必要ではありません。一方、コーチングは目標やゴールというものを使いながら相手の世界を変えていきます。個人の持つ可能性に焦点を当て、まだ見ない世界への広がりを引き出していこうという野心的な試みなのです。

コーチングはスリリングな行為でもあり、だからこそ「コーチ」という専門技術をもった人間が行うものです。興味を持たれた方は、ぜひご自身でもコーチングを学んでみてはいかがでしょうか。

最新コラム
【無料ID発行中】お試しeラーニング
人材育成コラム 一覧に戻る