コラム

「組織は戦略に従う」 ~最近の実践例から自社のあり方を考えよう

1.はじめに

皆さんの会社では組織再編は頻繁に行われていますか?社長や部長が変わるたびに組織が変わる、でも業務内容は全く変わらない、という人も多いかもしれません。

今回は「組織は戦略に従う」という命題を考えます。もっとも、多くの会社でみられるのは「戦略は組織に従う」という現象です。実際、これはどちらもあることですが、本来的に前者の方が望ましいことは当然です(組織は手段に過ぎません)。

さて、では今日的な意味での「組織は戦略に従う」というのはどういうことなのでしょうか。DXやグローバル化、事業ポートフォリオの観点から、今回はIシステム部門の位置づけや本社の所在、そして分社化という3つの事例を見ていきます。是非、皆さんの会社への応用を考えてみてください。

2.「組織は戦略に従う」とは

「組織は戦略に従う」という言葉は、米国の経営史学者であったアルフレッド・チャンドラーが言い始めたものです。彼は米国のデュポン、ゼネラル・モータース、スタンダード石油ニュージャージー、シアーズ・ローバックという大企業4社の経営史を分析し、それぞれが事業拡大の局面において「事業部制」を採用していったことを議論しました。

その意味合いは、戦略が決まらなければ必要な組織構造も決まらない、ということです。どのような戦略をとるかによって、あるべき最適な組織が変わってくるというのは当たり前のことでもあります。

チャンドラーも指摘していますが、会社(あるいは人間)というものは、何らかの大きな必要性に迫られなければ業務の進め方や分掌などを変えることはありません。誰しも現状維持を好むのであって、それで成長できているうちはあえて組織を変える必要性はないということです。逆に、何らかの戦略的な変更があればこそ、組織も代わり、社風やそこにいる人間の雰囲気も変わっていくことになるでしょう。

多くの会社で組織再編や人事制度の変更がなされてもあまり意味がない理由がここにあります。戦略や事業領域が根本的に変わらないのに、組織だけ変えるという意味はなく、社員が行動様式を変えるインセンティブもないのです。今の組織は今の事業領域に最適化をしています。もし社風や組織を変えていこうと思えば、事業領域を変えるような戦略提案を先に行うことが必要です。

3.現代の日本企業にとっての実践例

さて、それでは今の日本においてこの命題をどのように考えていけばよいか、具体的な事例から考えていきたいと思います。戦略的に組織を変えるということはどういうことか、3つの切り口から見ていきましょう。

(1)DXが必要な時代に ~システム部門の位置づけは適切か

まず、システム部門の役割の変化から考えましょう。1980年に未来学者アルビン・トフラーは『第三の波』の中で情報化社会の到来を予測しました。事実、世界は大きくIT化に舵を切り、今ではGAFAを始めとする巨大テック企業が時価総額の上位に並んでいます。

そのような中、企業にとってのシステム部門にはどのような変化が生じたでしょうか。従来、システム部門は採用も別、やや特殊・専門的な技術家集団、縁の下の力持ちのようなイメージがあったように思いますが、今ではソフトウェアの競争力こそがその企業の価値の源泉になっています。テスラが強いのはハードが強いからではなく、ソフトウェアの技術を押さえているからです。CIOはシステムの相談役ではなく、企業戦略の中核を担う役割となり、システム部門は企業価値の源泉として期待されることになります。

もともと日本の企業はシステムの機能を外部のSIer(システムエンジニア)に外注しているケースが多いですが、そのような変化に早期に気づいた会社はシステム部門の内製化を始めました。ソフトウェアが差別化要素となる業界ほど、その傾向は強いといえるでしょう。また、単純に内製化するだけではなく、企業によってはシステム部門を経営企画部の中に取り込み、その社内的な位置づけを変える例もあります。システム部門の社員としても、今まではシステム部員としてやや特殊な位置づけであったものが、それからは会社の中心である経営企画部の一員として周囲からも見られることになり、自身の仕事に誇りも生まれてきます。

このようにシステムというものを戦略上どのように考えるかによって、システム部門の位置づけや中身は変わってきます。今の日本では、システム部門を外部のSIerとの窓口程度でしか位置づけていない会社から本流として位置付けている会社まで様々です。皆さんの会社はどういう戦略に基づき、どのような位置付け・状況にあるでしょうか。

なお、トフラーの第三の波では情報化社会への移行を予測していますが、今の時代は更に先、間接部門の人材を減らして自動化・AI化していく段階に入っています。単なるシステム部門ではなく、AIによる価値創造も含んだ次の戦略を描く必要が出てきており、それに沿った人材と組織が必要になっています。改めて自社の現状を振り返って頂きたいと思います。

(2)グローバルで勝つために ~本社機能の地理的位置


次に本社機能をどこに置くべきかという問題を扱います。日本企業であれば日本に本社があって当たり前と思うかもしれませんが、マーケットを世界と考えれば、日本に本社を置くことを当然視するのはリスクをはらみます。実際、M&Aを繰り返して世界化した企業において、日本から他国へと本社機能を移し、日本は一つのリージョンとしての扱いにする、と決めた企業も存在します。その場合アメリカなのか、シンガポールなのか、北京なのか、スイスなのか。基本的に企業はマーケットから離れれば離れるほど情報が取りにくくなりますから、もっとも重要なマーケットに本社機能を置くことは自然な発想といえるでしょう。

近年、ある石油化学系の企業が、シュリンクしていく石油化学部門とは別にライフサイエンス事業に参入し、M&Aを通じて大きく業績を拡大させました。そして収益が黒字化してきた段階で大きな組織改革に着手し、ライフサイエンス事業全体を切り離して米国法人(社長は米国人)が統括するという決断を行いました。ライフサイエンスは何より米国市場が重要であり、その市場へのアクセスや肌感覚を持つためには拠点ごと移してしまった方が良いという判断でしょう。

チャンドラーは米国4社を研究して事業部制という方向性を見出しましたが、それぞれの事業部においても事業特性に応じて本社の場所を決めるというのは重要な発想であると思います。皆さんの会社がグローバルを志向する会社であり、特に成長市場が日本以外の地域だという場合、本社機能をどこに持つべきか、フラットに検討してみるのも良いことだと思います。

(3)事業ポートフォリオの組み換え ~分社化という流れ

ここ数年、アクティビストの動きもあって、世界的に分社化の大きな流れがあります。またコロナ禍を経て事業再編の機運も高まっており、ポートフォリオの整理・転換はどの企業にとっても大きな論点となるでしょう。

近年で分社化をした有名な事例でいえば、シーメンス(ドイツ)やGE(米国)、ユナイテッドテクノロジーズ(米国)、ダウ・デュポン(米国)が挙げられます。日本でも東芝の分社化が話題になりましたが、分社化そのものが目的ではなく、どのような戦略があって、どのように分社化するのかが重要です。分社化すれば意思決定が早くなり、また自由度も上がりますが、そもそもその領域で勝っていけるという見込みがなくてはいけません。

一概に分社化することが良いわけではありませんが、上記(2)で紹介した石油化学系企業もライフサイエンス事業を切り離して別会社にしています。コングロマリットの一部として存在してしまうと、どうしても独立独歩でやっていくときよりも発想が小さくなり、経営のスケール感が小さくなってしまうものです。また、例えば500億円の事業規模と言えば十分立派な会社のはずですが、1兆円規模のコングロマリットの中では全体の5%を占めるにすぎず、事業全体に自信を持てないとか傍流意識がしみついてしまうといった弊害も考えられます。

ある事業を自社の中に組み込むのか分社化するのか、それは時代の流れや業界のライフサイクル、また自社の成長段階の中で総合的に判断するべき問題です。皆さんの会社も事業の新陳代謝という観点から再度、事業領域の整理について考えてみてはいかがでしょうか。

4.さいごに

組織というものは理念上、戦略を前提にして組み立てられるものです。外部環境は変わり続けるので、その瞬間に最適な組織になっても、次の瞬間には劣化していきます。今回はDXが重要になる中でのシステム部門の位置づけや、グローバル化の中で本社機能は本来どこにあるべきか、そしてそもそもどの事業を会社内部におき、何を分社化させていくべきかといった事例を扱いながら考えていきました。

繰り返しになりますが、戦略を大きく変えることを前提にしない小手先の組織変更は殆ど意味がなく、「組織ばかりいじっている」ということになりがちです。今一度、自分たちの戦略と組織の作り方について真剣に考えてみてはいかがでしょうか。