コラム

新入社員への効果的な人材育成~受入れ側のスタンスと具体策

1.はじめに

新入社員が入社してくる時期になりました。
新入社員が活躍できる人材へ、効果的な人材育成アプローチはどういったものでしょうか。
まず前提として理解すべき点は、今のZ世代と管理職世代では、職業観(どういったワークスタイルを望むか?など)の違いはあれども、「仕事を通じて成長したい」という思いは共通である、という事です。Z世代の前向きな気持ちを大切に、成長の手助けをすることが管理職世代の役割であり、人材育成の目的です。しかし、取るべきスタンスやアプローチに齟齬があると、早期離職やメンタル不調を引き起こしかねないのもまた現実です。

そこで、本コラムでは、効果的な新入社員の人材育成アプローチを「向き合い方(スタンス)」と「指導・支援方法(具体策)」の2つの側面から考えていきます。

2.基盤となる、相手との「向き合い方(スタンス)」

先に結論からお伝えすると、相手を尊重し、相手の能力・意欲に合わせた「相手本位」のスタンスが大切です。

管理職世代の皆様の中には、ご自身が「仕事は厳しく育てるものだ」という育てられ方をされ、それが当たり前だと考えている方もおられるかもしれません。しかし、これは効果的なアプローチとはいえません。
一般的に「恐怖」による統制指導スタイルは、若手社員のやる気を低下させるといわれています。
また、次のようなデータもあります。

「敬意ある態度で接してくれている上司の部下」は、そうでない上司の部下よりも

・仕事によく集中でき、すべきことの優先順位づけもうまくできている…92%
・仕事に熱心に取り組んでいる…55%

※クリスティーン・ポラス「Think CIVILITY『礼儀正しさ』こそ最強の生存戦略である」夏目大訳,東洋経済(2019)

威圧スタイル上司とは反対の、「相手を尊重するスタンス」に立つ上司の下につく部下の方が、「高い成果を出せる人材」に育ちやすいのです。
では、次に具体的にどのような指導・支援方法のアプローチを取るのが効果的なのでしょうか。

3.効果的な「指導・支援方法(具体策)」

まず「何を」支援すればよいのか?という点です。
立教大学の中原淳教授は、『職場学習論(東京大学出版会)』の中で、「育成には以下3つの支援が必要である」と研究結果から結論づけています。

1:業務支援 2:内省支援 3:精神的支援
この3つの領域におけるアプローチを、「どう」するのが効果的かひとつひとつ掘り下げて考えていきましょう。

1:業務支援

業務支援とは、簡単に言えば、「仕事のやり方を教え、相手にあった経験を積ませ、成長の手助けをすること」です。ポイントは「相手のレベルに合わせて教え方を変える」という点にあります。「認知的徒弟制理論」という概念では「相手のレベルに合わせて、次の4つの段階を踏むこと」が人を効果的に育成するためには効果的だとされています。

1)相手にお手本を見せる(モデリング)
2)相手のレベルに合った課題を与え、ヒントやアドバイスを与えながら、お手本通りにできるよう指導する(コーチング)
3)今後、相手が自分自身で自ら考え、上達の道を歩むサポートをする(スキャフォールディング)
4)相手が1人立ちできるように徐々に関わりを減らし外部から見守る(フェーディング)


管理職世代が新入社員だった頃は「自分で考えろ」「(何も教えずに)見て覚えろ」であるとか、「お客様にとっては新人もベテランも関係ない。プロ意識を持て。(以上)」といった精神論に偏りすぎたアプローチが当たり前だったかもしれません。
しかし、こういったアプローチは「人の成長を促す効果的な指導」とはいえないことが、研究の結果からわかっています。最初は丁寧に手取り足取り教え、順を追って関わりを減らしていくアプローチを取ることが大切になるのです。

2:内省支援

内省支援とは「振り返り」をする手助けをすることです。
「何を学び、どんなことを感じたのか?」を日々振り返る機会をつくることは新入社員の成長を促す上で、とても大切です。振り返りの手段としては、日報・週報などを提出してもらうやり方もありますし、実際に面談をする方法もあります。
この「振り返り」に際し、特徴的なアプローチをされているA社の例を紹介します。

A社では、「リバース・リフレクション」という独自の方法を取り入れられています。
「教える側」と「教わる側」を入れ替え(=リバース)、新人が先輩に得た知識・スキルを「教える」ことを通じて、理解を深め、定着を図る方法です。 金曜日の業務終了まえに、15分程度の時間を取り、まずは「今週、どんな業務を学んだのか」を伝えてもらいます。それらを、先輩に対して、教える機会を設けているのです。
このアプローチは、日々の業務に対する注意力の向上にもつながりますし、高い効果を発揮しています。

3:精神支援

精神的支援とは、その言葉通り、相手のメンタル面をケアすることです。
特に注意すべき点は、ストレスとの相関性が高い「他メンバーとのコミュニケーション」です。次のデータをご覧ください。在宅勤務において新入社員が感じる課題の上位3つに「コミュニケーションのとりづらさ」が入っています。

※2020年度新卒入社者のオンボーディング実態調査(コロナ禍影響編)(パーソル総合研究所)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/new-graduate_onboarding.html

特にテレワーク下においては、孤独感を感じ、つながりやサポートの得づらさからストレスを抱えている新入社員が多いことがわかります。
この解決に効果的なのは、「縦の関係」と「横の関係」をつくりやすくする仕組みを構築することです。「縦の関係」とは、「上司と新入社員」との関係のこと。つまり、上司といかにコミュニケーションを取りやすくするかという手助けです。上手くコミュニケーションが取れている企業の実践例を挙げると以下のようなことを継続実践しておられます。

定期的に1on1を行う

→ 2週間に一度くらいのペースで、1回30分ほど、定期的に業務指導とは別に、相手が話したいことを話す時間を作る。
「空いている時間で・・・」だと、実施が難しい場合があるので、前月の月末に予定を固めてしまう。

業務開始時に、報連相が可能な時間を例示する

→ 朝一番で、「今日は、◎時~◎時の間は、話しかけて大丈夫」という旨を伝えておく。
新入社員は、例え「いつでも話しかけてよいですよ」と言われていたとしても、組織にはヒエラルキーが存在しますから、「話しかけづらい」という感覚をもちがちです。この課題を解消するには「仕組み化」してしまう方が効果的なのです。

「横の関係」とは、「他メンバーと新入社員」との関係のこと。 現実問題として、自身の業務が多忙な中での新入社員の受け入れに対して、先輩メンバー間で温度差がある場合も多いのではないでしょうか。そこでお勧めなのは、次のようなメンバーマップを作成し、配属時に新入社員に配布をする方法です。

事前に、「交通費精算等の庶務業務についてはAさん」「企画書づくりに関してはBさん」といった形で既存メンバー個々人に、支援カテゴリーの役割を降ります。なぜなら「「みんなで力を合わせてやろう」といった全体論で言われると当事者意識をもちづらいが、「個々人に役割を与えられる」と当事者意識をもちやすい」という心理的特徴が人間にはあるからです。既存のメンバー個々人に役割を振れば、育成に対する当事者意識をもらいやすくなるのです。かつ、新入社員においては、様々なメンバーに話しかける理由もできます。結果として、コミュニケーションが活性化されやすくなるのです。

4.おわりに

今回は新入社員を対象に述べてきましたが、成長意欲のある全社員に活用頂ける事です。
社員の前向きな気持ち・成長の手助けが管理職のミッションであり、育った環境・時代の違いを理解した「向き合い方」と、業務指示以外の「指導・支援方法」を継続頂く事が、社員育成・組織活性へと至り、管理職の大きな役割なのです。
目の前の業務・目標値にとらわれがちですが、部下社員の人材活用最大化を目指す事が中期的な目標達成・組織強化へと繋がります。