コラム

ビジネスマンに必須のビジネススキル「時流を捉える力」

1. なぜ、時流を捉える必要があるのか。

近年VUCAと呼ばれる言葉を耳にすることが多くなったと思います。

VUCAとは「Volatility(激動)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」の頭文字をつなげた言葉であり、言い換えると将来に対して予想が困難で不確実性が高く、先が見通しづらい時代を表した言葉と言えます。ただし、先が見通しづらいから、ビジネスにおいて何もしない人はほとんどいないと思います。

ビジネスにおいて大切なことは、将来何が起きるのかという仮説(将来予測)に基づき、いま何をすべきか意思決定することが求められます。将来予測を立てるためには、時流を捉えることが肝要です。時流を捉えることができると、ビジネスの流れ(ビジネストレンド)を抑えることができます。
ビジネストレンドを抑えられれば、競合より先に顕在化していない顧客のニーズを掴めることができます。それにより、市場における認知度が高まり、先行者優位を確保できます。
結果的に競合のいない中でビジネスができるので、安値競争に巻き込まれず、しっかりと利益を確保することができ、そこで得た利益をさらに次の投資に再配分することができます。
後出しジャンケンのように市場変化が起きた後で、サービス内容をすぐに変化させたり、顧客ニーズがこれからも変化しないという条件が揃えば、ビジネストレンドを抑える必要はないでしょう。

それでは、将来予測が日頃の行動とどう結びついているか、わかりやすく日常における行動を例に見ていきましょう。
皆様は天気予報で降水確率が80%とニュースで流れていると、家を出るときに傘を持っていきませんか。もしくは、明日の人事評価会議は予定より長引くかもしれないから、時間があるうちに新人研修の研修プログラムの骨子を先に作っておこう、という具合に、将来起きそうなことに対応できるように、予測していま行動していると思います。
ビジネスをするうえで重要になってくるのは、将来予測の精度をいかに高めるかが重要になってきます。


将来予測の精度を高めるためのポイントは、考える視点の幅と深さが重要です。
ここでは視点の幅を「視野」、視点の深さを「視座」と定義したいと思います。

視野が広いとは、鳥の目のように高い位置から俯瞰して物事を捉えられることができる力のことを指します。
このほかにもビジネスにおいては、魚の目や虫の目が重要と言われておりますが、今回は鳥の目に焦点を当てたいと思います。鳥のように高い位置から俯瞰して物事が見られるようになると、近視眼的ではなく「そもそも論」で物事を捉えることができるようになります。

例えば、新人研修の教育パートナー選定でA社とB社が候補に挙がっていたとします。
A社よりB社の方が、価格は50%安いが、A社の研修の方が50%社員定着に効果があると仮定します。そうすると、目先のB社の研修の価格に目移りすることなく、A社の研修を導入する方が結果的に社員の離職に伴う採用コストを抑えられるのであれば、A社の提案の方が会社全体で見ると安価かもしれません。
視野が広くなることで、いろいろな事象を捉えられるようになります。

それでは次に視座について考えましょう。
視座とは文字通り、どの椅子に座って物事を捉えるか、ということになります。
椅子の種類は役職による縦の階層をイメージしてください。
人事担当者が見ている景色は、どのような研修がもっとも受講生に効果的なのか、という視点で社員を見ているかもしれませんが、人事担当役員レベルでは、次期経営者をどのようにして選抜して育てていくのか、という視点で社員を見ているかもしれません。社長であれば、新規事業開発の責任者に誰をアサインしようと考えているかもしれません。
このように座る椅子の違いによって、同じ対象を見ても景色が異なるのです。

従いまして、より広い視野で、より高い視座で物事を見ることにより、ビジネストレンドを捉えることが可能になります。

2.情報感度を高める。

ビジネストレンドを抑える重要性はご理解いただいと思いますが、ここからは数多くある情報からいかにして有用な情報を収集するか、考えていきたいと思います。
こちらのデータをご覧ください。

データ流通量の爆発的拡大

データ流通量の推移

(出典)総務省(2020)「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果(2019年11月分)」
引用:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd131110.html

これは総務省が調べている、データ通信量の推移になります。
このグラフから一目瞭然ですが、2012年5月頃からデータ量が急上昇していることがお分かりになると思います。
一説によると現代人が1日で得る情報量は、江戸時代の情報量の1年分に相当すると言われています。世の中に溢れている情報から、ビジネスにおいて必要な情報を収集し、加工し、意思決定をしなければならないことがお分かりになると思います。

2019年に出版されて話題になった、「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著・日経BP発行)」においても、膨大なデータの中から正しく情報を収集する大切さが書かれており、ビジネスパーソンの情報選択に関する関心の高さが伺えます。

3.時流を捉えるポイント(PEST)

ビジネストレンドを抑えるポイントとして、PEST分析というフレームワークとフェルミ推定という考え方をご紹介します。
PESTとは、P:Politics(政治的)、E:Economy(経済的)、S:Society(社会的)、T:Technology(技術的)をつなげた言葉です。
一つ一つ具体的に見ていきましょう。

Politics(政治的):法規制の変化。成人年齢の引き下げ。脱炭素社会に向けた取り組みなど
Economy(経済的):経済成長率や雇用率。賃金の動向など
Society(社会的):世界規模で見る人口増加。日本における少子高齢化や過疎化の進行など
Technology(技術的):技術革新や代替技術。特許など
Politics(政治的):法規制の変化。成人年齢の引き下げ。脱炭素社会に向けた取り組みなど
Economy(経済的):経済成長率や雇用率。賃金の動向など
Society(社会的):世界規模で見る人口増加。日本における少子高齢化や過疎化の進行など
Technology(技術的):技術革新や代替技術。特許など

このように、私たちの存在する社会にはルールや大きな流れがあり、それを大きく捉えるためにPEST分析は有効だと言えます。

次にフェルミ推定をご紹介します。
フェルミ推定は、正確に把握するのが難しい数値を、論理的に概算するものです。
「原子力の父」として知られるノーベル賞物理学者エンリコ・フェルミの名前に由来します。
このフェルミ推定を用いた有名な質問が、日本に電信柱は何本あるか推定してください。という問題があります。
論理的に概算する力が高まると、数ある情報から本当に確からしい数値かどうかを建設的に疑うことが可能になります。もし、さまざまな情報の中で本当かなぁ、という信じ難いデータがありましたら、このフェルミ推定を使うと、ご自身のなかで検証ができるようになると思います。ぜひ試してみてください。

4.おわりに

今回は、ビジネスパーソンがなぜ時流を捉えなければならないのか、について触れてきました。
VUCAと呼ばれる将来予測がしづらい時代においても、他社に先んじてビジネスを優位に進めるための意思決定を行うために、ビジネストレンドを抑える必要性がお分かりいただけたのではないでしょうか。
このビジネストレンドを抑えるためのスキルは一朝一夕ですぐに身につくものではありません。繰り返し情報に触れて、将来予測の精度を高める必要があるのです。