コラム

SDGsが「常識化」する中での人材育成とは

1.はじめに

ここ1~2年で日本でも「SDGs」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。
企業の中には17の目標をかたどった17色の丸いバッジを身に付けている人も多いのではないでしょうか。
脱炭素への動きも急激にスピードを増し、世界では環境や人権といった社会課題への関心がどんどん高まっています。欧州系の企業では女性管理職の割合など一定の指標をクリアしなければ取引先として契約できない仕組みにしているところもあるようで、企業で働く社員としても、そういった時代の変化に追いついていかなければいけません。

今回は日本でもマインドチェンジとして重要なSDGsやESGに焦点を当て、どのような観点から社内に広め、浸透させていくべきかを考えていきましょう。

2.小学校でも教えるSDGs ~新しい「常識」に

グレタ・トゥンベリさんの活動を挙げるまでもなく、急激に環境問題への意識は高まっており、若い世代中心に消費行動にも変化が見られています。
例えば欧州のホテルで朝食をとろうとすれば普通の(乳製品の)ヨーグルトの横にソイ・ヨーグルト(大豆性ヨーグルト)が置いてあるでしょうし、多くの人は進んでそちらを選んでいます。子どもたちは小学校で地球環境について学び、例えば「畜産に伴い多くのCO2が排出される」という授業を受けて自然とベジタリアンになっていくケースも多く見られます。家でお肉を出されると、「なんで環境に悪いのにお肉を食べるの?」と聞かれ、上手く答えられない家庭も多いでしょう。

このように世の中の常識は変わりつつあります。オーストラリアやカリフォルニアなど、先進的な取り組みをしている地域においては、環境に配慮した製品には配慮していない製品よりもかなりの高額を支払うという傾向があり、ペットボトルを持ち歩くのは「ダサい」、マイボトルが普通という状況です。最近では水を紙パックで売るケースも出てきました。

さて、ここに「富士山の天然水」のようなミネラルウォーターと、近場の水源からとって飲めるようにしただけの「水」があったとき、どちらにお金を出すでしょうか。あるいは、どちらをより積極的に買うでしょうか。

一定の年齢以上の方は「富士山の天然水」と言うかもしれませんが、環境に敏感な層は必ずしもそうとは限りません。

「わざわざ水を飲むのに富士山まで道路を引いて、パイプラインを通して、水を運んで、そしてペットボトルに詰めるってエコじゃないよね」
「それなら近くの川から普通に水を汲んで水道水にした方がいいよね」

と言われたらどうでしょう。エシカル消費とも言いますが、こういう行動原理が少しずつ広がっているといえば、考え方の違いに驚かれる方も多いのではないでしょうか。

いわゆるジェネレーションZ(2000年から2010年の間に生まれた世代)を中心に消費行動が大きく変わるとなると、企業の側も悠長に構えているわけにはいきません。自社の社員に対しても「新しい常識」に合わせていけるよう教育をしていかなくてはいけないでしょう。

3.CSR、ESG、そしてSDGs ~結局、何がどう違うのか

ところで、最近よく聞く言葉でESGというものもあるでしょう。SDGsと何が違うのかよく分からない、という人も多いかもしれません。また、過去にあったCSRのようなものだと考えている人もいるかもしれません。ここで少し整理をしておきましょう。

CSR、ESG、SDGs

CSR(corporate social responsibility):

  • 企業の社会的責任。企業が自主的に社会貢献しようとして行う活動のことで、日本では利益とは無関係に行う活動という意味で使われることが多い。
  • 利益を生まないというイメージが強いため、ビジネスの一環として積極的に展開するという方は比較的少ないように見える。

ESG(Environment・Social・Governance):

  • 環境・社会・ガバナンス。近年、投資家視点で企業の長期的なリスクを低減するために考慮されている項目のこと
  • 世界的にはSDGsよりもESGの方が遥かに認知度が高いが、日本では混同されがちで注意をしたい。あくまで投資家との対話の中で出てくる考え方なので、長期的な財務リスクを低減する目的であって、社会善を目的にしているわけではないことは押さえたい。

SDGs(Sustainable Development Goals):

  • 持続可能な開発目標。国連のミレニアル開発目標(MDGs)の後継として2015年に採択され、2030年までの開発目標・具体的な指針を定めている。飢餓や貧困の撲滅、生物多様性の維持など、より公共善に近い社会課題を実現するために積極的なアクションが必要なものと言える

横文字が多くなってしまって混乱するかもしれませんが、ざっくり言えばESGは株主向けの「守り」の考え方、SDGsはより社会全体向けの「攻め」の価値創造を考えます。最近の流れにおいて、企業人にとって第一に重要なことはESGの理解ですが、社会課題への感度という意味ではSDGsへも目くばせをしなくてはいけません。

4.SDGsを意識した人材育成とは ~新規事業の発想を広げる


ではそういったSDGsを意識した人材の育成におけるポイントを考えましょう。冒頭で述べたように、世界の常識に自分自身をアップデートし、社会全体の流れを作ることは大切です。一方で、単純に消費者の動向を理解しようというだけでは、ある意味で今までのマーケティングと変わりません。では、SDGsを学ぶことにどのような重要性があるのでしょうか。

新しい事業を起こそうとするとき、発想が出てこないという悩みはどの企業にもあるものです。SDGsの良いところは、目標が17もあり、より具体的に169のターゲットが定められているということです。どれもが大きな社会課題ですので企業から見れば飛び地なわけですが、とはいえ必ずニーズがあるとお墨付きを得ているというのは大変大きなことです。自社のビジネスをSDGsの各目標やターゲットと結び付け、今まで考えたこともなかった新しい発想をひねり出すことができれば大きな進歩といえるでしょう。「自社のイノベーションのタネにしていくこと」、それがSDGsが持つ重要な役割なのです。


SDGsの17の目標

例えば、「SDGs目標5. ジェンダー平等を実現しよう」について、ターゲット5.1では「あらゆる場所におけるすべての女性および女子に対するあらゆる形態の差別を撤廃する」と書かれています。最近ではLGBTへの理解の促進という流れもありますので、そこも含めて考えられると良いでしょう。

P&Gは2015年に生理用品ブランドAlways(日本ではウィスパー)に関して「Like a girl(女の子らしく)」というキャンペーンを打ちました。「女の子らしいって何だろう?」「私たちは無意識に『女の子らしさ』という枠にとらわれて自分らしさを見失ってしまっているのではないか?」という洞察を表した素晴らしいキャンペーンで、非常に大きな反響を呼びました。実際、その動画の上で小さい女の子たちに「女の子らしいってどういうこと?」と聞くと、それは「思いっきり全力で走ること!」であったり、「思いっきりボールを投げること!」だったり、まさに自分を精一杯活きている少女たちの答えが返ってきます。そういう答えに私たちは自分たちの持つ偏見に気づき、「女の子らしく」というのは「自分らしく」ということなのだ、という当たり前だけれども気づかなかった考え方に気づいていくのです。

今までは製品やサービスの価値というものは機能性が中心だったかもしれませんが、これからはこういった社会課題への向き合い方もまた価値として認められる時代です。時代の不条理のようなものをどう切り取り、自分たちはこの世界・社会をこう変えていきたいんだという強い思いを商品・サービスに乗せることで、今までにない新しいブランディングへと繋げることができるでしょう。そのためにSDGsの各目標の理解は非常に良い発想のタネになります。この社会課題に向き合ったとき、どのような対応が自社でできるのか、現状の枠を広げて考えてみることが自社の発展につながるでしょう。

5.さいごに ~現状を広げる

多くの人にとって現状というのは過去の延長であり、変化というのは苦痛を伴うものです。今までの価値観を覆していくような動きには抵抗があるかもしれませんが、過去の歴史を見ても分かるように、時代というものは良くなっていくものです。

現状維持バイアスを克服するためには、自分の現状を広げていくことです。新しい現状を知り、世界の変化を知り、そして自分の周りに変化を起こしていきましょう。それを会社全体でできてきたとき、皆さんの会社もまた、「新しい企業」として変化していけることになります。

‘, ‘