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2021/05/10

「型にはまったリーダー像」は危ない ~状況によって変化するリーダーシップ

1.はじめに ~リーダー像に正解はない!?

「リーダー像に正解はない」ときいて皆さんはどのように感じるでしょうか。

「そんなことは当たり前だ」という方も多いかもしれませんが、多くの人は「リーダーは率先垂範であるべきだ」とか「苦しい時も苦しい姿を見せないべきだ」といったような「あるべきリーダー像」を無意識に想定しています。

課長になったら何となく「課長になったときに読む本」といった類の書籍を読んでみたくなる、ああ課長ってこういう風にするんだ、と正解を探してしまう。それは無意識に「リーダー像に正解がある」と思っているということです。

しかし世の中のリーダーシップの本は、その人の体験談であることも多く、その時、その場所で、私はこうした、という一つの事例に過ぎません。その経験自体は大変有益な示唆がありますが、それがそのまま自分の場合に当てはまる保証はありません。

今回はこの「リーダー像」について、一般的・普遍的に妥当するリーダー像などというものはないという点について改めて考えていきましょう。リーダーはどうあるべきなのか、と悩んでいる方には重要なテーマになるはずです。

2.求められるリーダーは「時と場合」による

最近、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が辞任されました。森会長ご自身は日本ラグビー協会会長として先のラグビーワールドカップの招致に成功し、日本におけるラグビーブームの火付け役となりました。一方、コロナ禍で延期になったオリンピックについては批判を受けて辞任になってしまったのはどういうことでしょう。これもまた順境で求められるリーダーと逆境で求められるリーダーのタイプが違うことを示しています。恐らくコロナがなければオリンピックも森会長の下で順調に行われていたのではないでしょうか。

もう少し深刻な例を出しましょう。第二次世界大戦後、ビルマで捕虜生活を経験した会田雄次はその著書である『アーロン収容所』のなかで、戦争中と捕虜期間中においては「指導者の交代」という現象が見られたと書いています。戦争中は常に命の危険がある中、自ら果たすべき役割を実直に果たすといったスタイルの人間に尊敬の念が集まっていた一方、捕虜生活においては差し迫った生命の危険はなく、むしろ退屈な生活に少しでも潤いを与えることができる(例えば生活物資を何らかの形で調達できる)人間に尊敬の念が集まったということです。

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捕虜生活が進んでくるにつれて、私は一つの現象に気付いた。それは、私たちの日常生活における指導的な役割を果たすものが交代し、新しい指導者層が現われてきて、生活の雰囲気が急速に変わってきたことであった。
(『アーロン収容所』、p.200)
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これは企業においても同様です。会社が順調に成長しているときのリーダーと、危機に瀕しているときのリーダーが同じタイプとは思えません。また、係長級のリーダーシップと役員級のリーダーシップも同じではないのです。以下、いくつかの項目で「リーダーシップは同じではない」ということを考えていきます。

(1)同じ業界でも会社によってリーダーの素質は違う

まず、同じ業界であったとしても、社風というものがあります。簡単に言えば、三菱商事で出世する人間と伊藤忠商事で出世する人間は違うタイプの人間なのです。それはその会社の組織文化であり、社風が要求するリーダーシップです。同様に三菱UFJ銀行と三井住友銀行でも違うでしょうし、NTTドコモとソフトバンクでも違うはずです。

リーダーシップが周りに影響力を与える力だとすれば、その組織の風土というものは無視するわけにはいきません。「合う会社」にいかなければ、基本的にリーダーシップを発揮することはできないでしょう。

(2)同じ会社であっても状況によってリーダーの素質は違う

また、たとえ同じ会社であっても、その会社の置かれた状況によって求められるリーダーシップは違うでしょう。このコラムでも紹介したスティーブジョブズの例は典型的で、ゼロからイチを生み出すフェーズでジョブズは活躍しますが、事業が軌道に乗って成長、拡大していく段階においては必要とされないのです。ジョブズはあくまでイノベーション型のリーダーであって、オペレーションを上手くやるといったことは向いていないでしょう。その後、アップルがiPodなど、新しい商品を生み出す段階で、ジョブズは再度この会社に戻ってきました。

0から1、1から10、10から100、そして100から101、はたまたマイナスを0に戻すといった各段階でリーダーシップのあり方は違うでしょう。今の日本企業では100を101にできる人間は多い一方、0から1が得意な人は少数派だと言われます。自分がどのタイプなのか、あるいは今会社で求められているのはどういうタイプのリーダーシップなのかを考えることが大切です。

(3)同じ会社、同じ時期であってもポジションによってリーダーの素質は違う

当然ですが、部下5人の係長と、部下500人の役員ではリーダーシップのあり方は違うでしょう。よくある話しとして、率先垂範で仕事をすることがリーダーの役目だと思ってきた方が、360度評価などで部下から、

  • 「飛び回っているので中々つかまらず、相談できない」
  • 「自分で現場に立つので下が育たない」
  • 「人材育成に時間をかけていない」

などの意見をもらうというものがあります。自分が理想だと考えていたリーダー像も、部下からは独善的な印象を与えることもあり、そのポジションごとにどのようなリーダーシップが求められているのか考えねばなりません。

これは成長事業のリーダーなのか衰退事業のリーダーなのか、でも同様です。放っておいても業績が上がる事業と、部下を鼓舞しなければモチベーションの維持も難しい事業ではリーダーに必要な要素が違うのは当然です。

(4)同じポジションであっても部下のスキル等によってリーダーの素質は違う

さらに、同じ会社、同じ時期、同じポジションであったとしても、部下にどんな人間がいるかによって果たすべき役割は異なるでしょう。一定のアウトプットを出すことが必須であるとすれば、全員ベテランで事業経験も深い組織と、全員新入社員や若手で日々のルーティンすらあやしい組織とではリーダーが行うべき活動は違ってくるはずです。

このように、まさに状況に応じてリーダーシップのあり方は変わってきます。一般的・普遍的に妥当するリーダー像などというものはないというのはこういうことなのです。

3.自分らしさと求められる役割の間で

このように見ていくと、その時々に求められるリーダーシップは異なり、自分がリーダーたりえるか、というのも変わってくることが分かります。同じ人が常にリーダーになれるわけではなく、過去に活躍したリーダーが今も活躍できるとは限りません。

会社のポジションにはそれぞれ、今求められるリーダー像があります。まずは自分の能力、スタイル、価値観に照らして、どのポジションが最もリーダーシップを発揮できるだろうかと考えることが大切です。オファーされたポジションが自分の能力や価値観に合わない場合、リーダーを引き受けないというのも重要な選択です。

逆に言えば、もし引き受けると決めたのであれば、理想のリーダーを「演じて」いく必要があるでしょう。状況によっては許容されるスタイルに幅があり、その中で自分らしさを表現していくこともできるかもしれません。それにしても、やはり意識的にその環境下で求められるリーダー像を演じること、「Fake it, til you make it.」(なりたい自分の姿があるなら、すでにその姿になったかのように振舞え)ということが必要なのです。

やってはいけないことは、自分の独りよがりな「リーダーシップ論」を持ち込んでしまうことです。リーダーは影響力が大きく、自分の独りよがりが周りを不幸にする可能性もあるということを忘れてはいけません。その意味で「正解のリーダーシップ」は危険なのです。

4.最後に ~それぞれの人が活躍できる場を提供する

今までは与えられた環境を前提にして、リーダーシップのあり方が違うという話をしてきました。しかし逆に言えば、企業としては、なるべく多くの人が活躍できる環境づくりをしていく必要があるということでもあります。

上で紹介した会田雄次は次のようにも書いています。

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人間の才能にはいろいろな型があるのだろう。その才能を発揮させる条件はまた種々あるのだろう。ところが、現在のわれわれの社会が、発掘し、発揮させる才能は、ごく限られたものにすぎないのではなかろうか。多くの人は、才能があっても、それを発揮できる機会を持ち得ず、才能を埋もれさせたまま死んでゆくのであろう。人間の価値など、その人がその時代に適応的だったかどうかだけにすぎないのではないか。
(『アーロン収容所』、pp.224-225)
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私たちはある意味でリーダーに憧れを持ちすぎているのかもしれません。それはある状況において誰かが果たすべき役割の一つにすぎず、状況が変わればあるべき姿も変わっていくものです。それが状況に応じて千差万別であるのであれば、逆に言えば、誰もがリーダーシップを発揮できるような仕組みを作り、正しく才能を評価し、適切に活躍できる環境を整備すること、これが企業に求められることではないでしょうか。

リーダーシップに正解がない、ということは、誰もがリーダーになれるということでもあるのですから。

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