NTTLS 人材育成WEB

お問い合わせ

Column

人材育成の企画・立案

第7回 新しい承認の在り方「ソーシャル・レコグニション」

7回目となる今回は「ソーシャル・レコグニション」というトレンドキーワードを取り上げてみたいと思います。

ソーシャル・レコグニションとは

「ソーシャル・レコグニション」とは、言葉の通り、2つの単語で成り立っています。

『ソーシャル』とは?

今やSNSに代表される「ソーシャル」という言葉。直訳すると「社会の」「社会的な」という意味ですが、近年は「双方向」「ネットワーク」を想起させる単語として頻繁に使われています。今回の「ソーシャル・レコグニション」という言葉も、「レコグニション」を「双方向化」したことによって、トレンドワードとして扱われるようになったということです。

『レコグニション』とは?

「レコグニション(Recognition)」は直訳すると「認識」という意味ですが、そもそもレコグニションの概念自体は、日本の人事制度に以前から組み込まれていたものです。例えば「営業成績優秀賞」や「皆勤賞」に代表される表彰制度を思い浮かべて頂くとイメージしやすいのですが、営業売上成績や欠勤日数などの指標に対する評価として、組織が金銭報酬以外に「表彰」という形で従業員を公に承認し、功利的な部分以外でモチベーションを向上させる制度が所謂「レコグニション制度」です。

結局、「ソーシャル・レコグニション」とは?

レコグニション制度が組織(上長)から従業員への一方通行な承認制度であるとするならば、「ソーシャル・レコグニション」は組織内の序列を取り払い、従業員同士が縦横無尽に承認行動で繋がっている状態や、その状態を作り出すための組織制度のことを指します。

一時の成果主義に見られたような金銭的な報酬制度だけでは、従業員の組織コミットメントは長続きせず、社内の空気も殺伐としたものになります。今後ますます労働人口が減少していく中、長きにわたり組織で活躍してもらう従業員を確保するためにも、金銭以外の部分でも働き甲斐を得てもらう必要が生まれます。その糸口として「従業員同士がお互いの仕事に感謝しあうスタンスや手法」として「ソーシャル・レコグニション」が注目されているというわけです。

例えば、従業員同士で仕事にまつわる「有難う!」のメッセージを交換し合い、それがアプリによってポイント化され、貯めたポイントを様々な景品や賞与に還元させる制度などはその代表例として企業でも導入されています。

ソーシャル・レコグニションの原理原則とは?

では「ソーシャル・レコグニション」が持つ原理原則とは何でしょうか。それを明らかにするためには、まず組織の中で従来行われてきた「承認」と、「ソーシャル・レコグニション」が生み出す「承認」の意味合いの違いがどこにあるのかを探らなければならないでしょう。

上の図にある通り、従来の評価もソーシャル・レコグニションも、近しい部分はあります。

例えば、

  1. いずれの承認も、当事者の承認欲求を満たすことには繋がっている
  2. いずれの承認もポイント還元やインセンティブ反映など、功利的な便益に着地する部分がある
  3. 部署で最も利害関係の強い上司からの承認は、最終的に功利的な便益まで透過する傾向にある

特に3.は、職務権限(言い換えれば当事者に対する命令権や人事考課権)を持った上司から承認された以上、その承認を昇給昇格に反映してくれるはず、という功利的な思惑が必ず作用してしまいます。

他方、日常業務において上司ほど利害関係が強くない従業員から承認されることは、上司の職務権限に基づいて承認されるよりも純粋な評価として映り、通常以上に自己承認欲求が向上するということです。また、その承認数が多ければ多いほど、SNS上の「サムズアップ(いいね!)」同様、社会(ここで言えば、「会社」)に対する自身の必要性や存在意義や価値を認識する機会に繋がり、承認欲求が強化されるという好循環なプロセスを生み出していきます。

つまり、「ソーシャル・レコグニション」の原則は、「利害の遠い人物からの働きかけによって、その当事者の満足度が高まる」ということです。

「ソーシャル・レコグニション」の原理原則から導く人事戦略

元々、人材戦略として生まれた「ソーシャル・レコグニション」を原理原則まで分解し、組織戦略にはめるとするなら、その恩恵を最大に受けられるのは紛れもなく「マーケティング機能」でしょう。

『マーケティング機能への転用

例えば、今やどこのメーカー系企業も技術者(SE)を営業支援担当と位置づけ、お客様との直接商談の場に駆り出しています。商材の複雑化もその要因としてはありますが、それ以上に、普段から接点のある営業担当以外の技術者(専門家)からの働きかけが、ソーシャル・レコグニションの原理原則を活用し、お客様のグリップを高めていると言えます。

営業に同行した技術者(専門家)から自社の取り組みを少しでも褒められようものなら、その企業の担当者は営業担当に褒められる以上に心が満たされるはずです。お客様にしてみれば、目の前の技術者は普段から商品を売り込んでくる営業担当ほど利害の繋がりはないと認識し、その結果、営業に言われる以上に承認欲求が満たされ、その会社における技術者の影響力が格段に向上し、スムーズなアップセルやクロスセルに繋がっていく仕掛けになっているわけです。

人事としてできること

「上司 - 部下」という強烈な利害関係の繋がりに「それ以外の従業員」をいくつもアサインさせ、働きかけをするのは従来のソーシャル・レコグニションです。「ソーシャル・レコグニション」の原理原則を戦略人事に組み込むためには、

  1. 普段の業務における利害関係者の組み合わせを検討する
  2. その組み合わせにおける利害関係者外の(或いは 薄い)人物として誰をアサインするかを検討する

ということが重要です。

上記事例のように、「営業担当 - お客様」という利害関係の隙間に「技術者」をアサインすることでお客様の承認欲求が拡大する以外にも、「営業担当 - お客様」の間に「他社」をアサインし、他社優良事例よりも自社が優れていることが認識できれば、営業担当の言葉よりもお客様は優越感に持つでしょう。

商品開発において「営業部 - 商品企画部」という利害関係の強い隙間に「消費者」をアサインすれば、商品企画部は、商品を売る営業に言われるより素直に仕様変更を聞き入れるかもしれません。

戦略人事とは人を育てることだけではなく、経営活動に人を介在させながら各機能として如何に効率的に成果を生み出すのかを検討するものです。だとすれば、人の育成や評価のみならず、ソーシャル・レコグニションの観点を基に、利害の間にどのような人物を差し込めば経営活動がより活性化するのかを考えてみることも重要なミッションとして捉えることができます。

人材育成の基礎知識 インデックス

OFF-JT、OJT、SDの3大手法…等の基本的な育成キーワードをはじめ、人材育成に関する基礎知識をご紹介します。

人を企業の財産にするために、運営するだけ、企画するだけではない、育成の打ち手となる企画を立案するための仕組みやツール、体制等をご紹介します。

人は経営資源の1つだからこそ、教育トレンドワードも企業戦略に結びつきます。育成=戦略へと視野拡張の考え方をご紹介します。