NTTLS 人材育成WEB

サービス一覧

Column

人材育成の基礎知識

第12回 心理的安全性

心理的安全性とは

『心理的安全性』とは、『サイコロジカル・セーフティ(psychological safety)』を日本語に訳した言葉で、ここ数年、ビジネスシーンで使われることが増加している心理学用語です。

心理的安全性の概念を最初に提唱したのは、ハーバード大学で組織行動学を研究しているエイミー・エドモンドソン教授(Amy C. Edmondson)です。エドモンドソン教授は心理的安全性について、「チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに 安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態」と定義しています。

平たく言うと、チーム内で自分の意見(たとえそれが的外れな意見であったとしても)を臆することなく発信できる状態と言えるでしょう。

心理的安全性が高いことにより、会社組織において、生産性の向上、離職率の低下、モチベーションの向上など様々な効果が生まれることが立証されており、ビジネスや組織を考える上で非常に重要なキーワードとなっています。

心理的安全性が注目を集めたきっかけ『プロジェクトアリストテレス』

心理的安全性がビジネスシーンで注目を浴びるきっかけとなったのが、Google社が生産性の高いチームの条件が何かを見つけ出すことを目的に行った『プロジェクトアリストテレス』という大規模な生産性向上プロジェクトです。

プロジェクトアリストテレスは、2012年から約4年の歳月と数百万ドルの資金をかけて、業績の高いチームと業績の低いチームを含む研究対象180チームを選定し、チームの構成(メンバーの性格特性や営業スキル、年齢・性別など)とチームの力学(チームメンバー同士の関係性など)がチームの効果性にどう影響するのかを比較検討しました。

2015年11月、Googleは研究結果を「チームを成功へと導く5つの鍵」として発表しました。

チームを成功へと導く5つの鍵

1.心理的安全性(Psychological safety)
「チームの中でミスをしても、それを理由に非難されることはない」と思えるか。
2.信頼性(Dependability)
「チームメンバーは、一度引き受けた仕事は最後までやりきってくれる」と思えるか。
3.構造と明瞭さ(Structure & clarity)
「チームには、有効な意思決定プロセスがある」と思えるか。
4.仕事の意味(Meaning of work)
「チームのためにしている仕事は、自分自身にとっても意義がある」と思えるか。
5.インパクト(Impact of work)
「チームの成果が組織の目標達成にどう貢献するかを理解してる」か。

(参考:https://rework.withgoogle.com/jp/

この発表の中で、Googleは「誰がチームのメンバーであるかよりも、チームがどのように協力しているかが重要」と述べています。そして、「心理的安全性は単なる1要素ではなくその他の4つを支える土台であり、チームの成功に最も重要な要素である」と発表したことによって、世界中の企業から心理的安全性という言葉が大きな注目を浴びることになりました。

心理的安全性が低いチームの特徴

では、心理的安全性が低いとチームはどのようになってしまうのでしょうか。
先述したエドモンドソン教授は、スピーチフォーラム「TED」にて、心理的安全性の不足が引き起こす不安と行動特徴として以下の4つを紹介しています。

いかがでしょうか。どれも心当たりがある心理状態や行動特徴ではないでしょうか。

エドモンドソン教授によれば、心理的安全性が低いチームで働く多くのメンバーは、これらの不安を払拭するため、自己呈示行動(self-presentation)や自己印象操作(self-impression management)といった本当の自分を偽るという行動をチーム内でとるようになります。

心理的安全性が高いチームの特徴

一方で、心理的安全性が高いチームはどのような特徴があるのでしょうか。
Googleのプロジェクトアリストテレスによる研究結果によれば、『心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が 2 倍多い』という衝撃的な内容が報告されています。

心理的安全性が高まることで、なぜgoogleでこのような効果が生まれたのでしょうか。
エドモンドソン教授が提起した『心理的安全性の不足が引き起こす4つの不安』が解消されることで、チームメンバーの行動特等はチームにとって建設的なものに変化していきます。(下図参照)
そして、これらのチームメンバーの建設的な行動が積み重なることで、離職率の低下やイノベーションの促進、収益性や生産性の向上に繋がったと考えられます。

チームの心理的安全性の現状確認

自身のチームの心理的安全性がどのような状態なのか、気になる方も多いと思います。
メンバーとリーダーのそれぞれの視点から心理的安全性を測る方法を見て行きましょう。

先ずは、メンバーの視点から心理的安全性を測る方法として、前述のエドモンドソン教授の1999年の論文に掲載されている7つの質問項目による尺度をご紹介します。

1.チーム内でミスをすると、たいてい非難される
(If you make a mistake on this team, it is often held against you.)
2.チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える
(Members of this team are able to bring up problems and tough issues.)
3.チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他社を拒絶することがある
(People on this team sometimes reject others for being different.)
4.チームに対してリスクのある行動をしても安全である
(It is safe to take a risk on this team.)
5.チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい
(It is difficult to ask other members of this team for help.)
6.チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない
(No one on this team would deliberately act in a way that undermines my efforts.)
7.チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる
(Working with members of this team, my unique skills and talents are valued and utilized.)

これらの質問に対してポジティブな回答をするメンバーが多いほど、心理的安全性が高いチームと評価できます。この7つの質問は、アンケートなどの形で定期的に実施することで、メンバーの置かれている状況の変化を把握することもできるでしょう。
質問1,3,5については、Noが多いほどポジティブと捉えられる設問、質問2,4,6,7についてはYesが多いほど、ポジティブと捉えられる設問です。

次に、リーダーの視点から心理的安全性を測る方法として、前述のエドモンドソン教授は『3つのサイン』を提唱しています。リーダーとしてチームの心理的安全性の状態をセルフチェックする視点として併せて持ち合わせておくとよいでしょう。

チームの心理的安全性を高めるには?

心理的安全性を作り上げる上では、リーダーの役割が重要であることが、エドモンドソン教授らが発表した2016年の研究で明らかにされています。特に、リーダーの行動の中でも、成長支援や傾聴といったコーチング的な関与が心理的安全性を高めることが九州大学の調査でも明らかになっています。

Googleでは、「心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること」としての5つのポイントを挙げています。

心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること

積極的な姿勢を示す
例:「今」を大切にし、目の前の会話に集中する(会議中はノートパソコンを閉じる、等)
理解していることを示す
例:話の内容を理解したことを言葉で示す(「なるほど」「おっしゃることはわかります」等)
対人関係において相手を受け入れる姿勢を示す
例:チームメンバーと親密な関係を築く(チームメンバーと仕事以外の話をする等)
意思決定において相手を受け入れる姿勢を示す
例:チームメンバーに意見やフィードバックを求める
強情にならない範囲で自信や信念を持つ
例:リスクを取るようチームメンバーに促し、自分の仕事でも実践してみせる

いずれの行動もささいな行動ではあるものの、効果的な行動であることは間違いありません。マネージャーとして常に心がけておきたいものですね。

Googleでは、心理的安全性を高めるチームを創ることをリーダーの姿勢にのみ依存している訳ではありません。会社として心理的安全性を高めるための『制度』も多数導入しています。最後に、その中でも代表的な制度を2つ紹介いたします。

①1on1ミーティング

Googleでは、マネージャー(上司)とチームメンバー(部下)は定期的に1対1で個人面談(1on1ミーティング)を行います。

昨今、多くの組織で1on1ミーティングは取り入れられていますが、Googleでは以下の特徴があります。

  • マネージャーは、週に1回
  • 1時間、すべてのメンバーと1on1を行う
  • 1on1はマネージャーではなくメンバーの時間
  • 基本的にはメンバーが話したいことを話してもらう
  • タスク(作業)を管理するための打ち合わせではない
  • 時にはプライベートな悩み相談の場となることもある

1on1ミーティングを機会に、マネージャーはメンバーが抱えている問題や期待を把握して、チームの生産性を高めることができます。同時に、メンバーとしてはマネージャーから承認されているという安心感が芽生え、心理的安全性を高めることができます。

Googleでは、効果的な1on1ミーティングができないマネージャーは、たとえチームの成果が上がっていたとしても、評価が下がる仕組みになっていると言われています。
それだけ1on1ミーティングをGoogleではチームの心理的安全性を高めるために重視しているとも言えます。

②ピアボーナス

ピアボーナス(ピアとは同僚という意味)とは、メンバー同士で報酬(ポイントなど)を送り合える成果制度のことです。
Googleでは社員一人ひとりにピアボーナスの決裁権が与えられています。毎月、会社からメンバーにポイントが付与され、会社やチームに貢献した人、成果を出した人に対し、感謝の気持ちとして報酬を送り合います。

運用ルールは次のようになっています。

  • 社員1人につき約15,000円の決裁権がある
  • 1年間で払える人数や回数は決められている
  • ピアボーナスの社内システムに送りたい相手の名前とその理由を入力すると承認後ボーナスが支払われる
  • マネ-ジャーは承認時にピアボーナスの申請内容を見て受け取るメンバーを褒めることができる

ピアボーナスのやり取りを通じてメンバー同士の交流や心の繋がりを深めることができ、さらにメンバーはマネージャーにがんばりを認めてもらうことで、承認されていると感じることができます。

まとめ

ここまで心理的安全性について解説を進めてきました。改めて心理的安全性が企業にもたらす直接的な影響を一言で言うと、『建設的なコミュニケーションの活性化』となります。
そして、『建設的なコミュニケーションの活性化』がもたらす波及効果としては様々なものが挙げられます。

  • チームワークの向上
  • 不祥事の事前回避
  • 生産性の向上
  • モチベーションの向上
  • 離職率の減少
  • イノベーションの推進

これらの波及効果は、この先、益々変化が加速するビジネス環境において、企業経営を行っていく上で非常に重要な課題となり得るものばかりです。これらの課題を抱えている企業にとって心理的安全性に取り組むことは避けて通れません。

最後に、心理的安全性を高めるための取り組みとしては、『意識改革』と『仕組みの整備』という両面で考える必要があります。『意識改革』としては、マネージャー層への研修や継続的な勉強会といったものが代表的です。『仕組みの整備』は、Googleの取り組みにあった『1on1ミーティング』や『ピアボーナス』等が参考になるでしょう。

こんな記事も読まれています

人材育成の基礎知識 インデックス

OFF-JT、OJT、SDの3大手法…等の基本的な育成キーワードをはじめ、人材育成に関する基礎知識をご紹介します。

人を企業の財産にするために、運営するだけ、企画するだけではない、育成の打ち手となる企画を立案するための仕組みやツール、体制等をご紹介します。

人は経営資源の1つだからこそ、教育トレンドワードも企業戦略に結びつきます。育成=戦略へと視野拡張の考え方をご紹介します。