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人材育成の基礎知識
第1回 人材育成の3大手法
人材育成の実行には、3つの手法があります。
事業戦略に基づいて、何を強化すべきか、という方針立案後、どの手法で行うのかを考える際に、この3手法の何れで行うのか、若しくは、その組み合わせを考えます。
OJT(On the Job Training/現場における教育、指導)
「うちの会社はOJTをやってますから」「私たちはOJTメインの実践型です」という言葉を聞きます。
それは真のOJTでしょうか。
単なる上司から部下への指示や、場当たり的な指導・注意になっていませんか。
OJTの本来の姿は、現場・業務の中で、何を・どのような方法で・どれぐらいの期間で習得させ育てるのか、という計画に基づいた指導です。
また、それを実行する中で、常に育成状況を確認し再計画、いわゆるPDCAサイクルを回さねばいけません。
そうして初めて、業務を通じた気付きや理解促進に至り、実践的な人材育成と言えます。
OJTリーダーと言われる指導する側は、それだけの「人を育む」という観点を持って、計画的に取り組んでこそ、始めて「OJTを行っている」と言えるのです。
また、会社側(人事・育成担当)は、OJTトレーナーが真のOJTを行うよう、支援・指導する必要があります。「仕事を教えてくださいね。頼みますね」では済まされません。
OJTそのものの考え方や方法論を伝えるのは勿論、OJTトレーナーが育成・指導に悩んだ際のフォロー・サポート体制も重要です。
指導を受ける当事者も、指導するOJTリーダーも、OJTという機会を有効的に成長の場とする事が良いOJT環境と言えるでしょう。
Point! OJTのメリット/デメリット
メリット
- 業務直結指導ができるため、実践力を養う事ができる
- 都度指導により、成長度合いに応じた計画変更ができる
- 社内育成のため、外部コストが不要
- 業務能力だけではなく、社風やルール、社として仕事への姿勢など、環境育成する事ができる
デメリット
- 指導力はOJTリーダーによる所が大きく、差異が出やすい
- 属人的指導のため、リーダーの考えや行動に大きく影響され易い
- 当該業務には通じているが、それ以外の専門領域・理論性の指導は希薄になりやすい
Off-JT(Off the Job Training/業務外の教育)
業務から切り離し、主に外部指導者による教育が、Off-JTです。
「Off-JTで外部研修に参加させたから、この能力はついた」「できるはずだ」と思われていませんか。
Off-JTだけでは、決して能力開発には至りません。
能力開発とは、inputした知識や学びを繰り返し演習・実践、PDCAを回して始めて習慣化となり、能力定着=能力開発に至ります。
あくまで「業務という日常から離れ、職場では感じられないような気付きや注意喚起、専門的な知識は手法を学ぶ場」がOff-JTとなります。
Off-JTでの気付きや学びを忘れずに、OJTの場で実践を継続する必要があり、そのためにはOJTリーダーのサポートが重要となります。
また、〇〇力を付けたいから△△研修を受けさせよう、と安易に選択する事も推奨しません。
なぜ〇〇力が必要なのか、それが不足しているのか何か、の要因分析を行った上で、問題本質を解決する研修を受講させることが重要です。
同じ研修でも多種多様のカリキュラム・講師がいて、選ばれる事も難しいでしょう。
受講者状況を鑑みながら、どの内容・どのタイプの講師がフィットするのか、見極める事も大事です。
Point! Off-JTのメリット/デメリット
メリット
- 職場では学べない、専門領域・理論の習得ができる
- 職場環境から離れ、新たな気付きに至り易い
- 参加者同士での交流・人脈形成が可能
デメリット
- 内容や講師など、研修の選択が難しい
- 外部講師の費用が発生
- Off-JT内容と実務連動の企画力が必要
SD(Self Development/自己啓発)
自ら、能力開発を行う事を指します。
よく「自己啓発セミナー」という言葉を耳にしますが、精神的な成長を目指した訓練を行う事も多々あります。
あなたは部下に「自己啓発しなさい」と、安易に言ってませんか?
子供に勉強しろ、と言ってしないのと同じです。
必要性を理解し気付き自ら取組む事、継続する事が能力開発に至るポイントです。
自己成長に関心がある方は、言わなくても自己啓発を行いますが、社員教育に於いては、取組まない社員にこそ、促す必要があります。
なぜ貴方には能力強化が必要なのか、なぜその分野を勉強すべきなのか、その先には何があるのか、成長した姿を描かせながら、自ら必要性を感じるようにサポートします。
Point! 自己啓発のメリット/デメリット
メリット
- 強化範囲や計画・予算など、自分で設定できる
- セミナー参加や読書、資格取得など様々な方法を選択できる
- 自分の出来る時間で行える
デメリット
- 長続きしない、途中で挫折する可能性がある
- 1人で取組むと、よりベストな強化範囲から外れる可能性がある(他者アドバイスが無い)
一番良いのは、状況によって組み合わせること
3つの手法について述べましたが、これらは単独ではなく、組み合わせる事がポイントとなります。
- Off-JTで学んだことをOJTで実践
- OJTで実践する中で、不足する事はOff-JTで学ぶ
- 並行して自己啓発を行う
大きくはこの考え方となります。
OJTをベースにしながら、適切なタイミングで適切な内容のOff-JTを行う、この設計が重要でしょう。
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人材育成の基礎知識 インデックス
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OFF-JT、OJT、SDの3大手法…等の基本的な育成キーワードをはじめ、人材育成に関する基礎知識をご紹介します。
- 【第1回】人材育成の3大手法
- 【第2回】入社初期の3大ビジネススキル
- 【第3回】ストレスマネジメント
- 【第4回】メンターとメンティ―
- 【第5回】ティーチングとコーチング
- 【第6回】リーダーシップとマネジメント
- 【第7回】キャリアデザイン
- 【第8回】問題解決思考
- 【第9回】ダイバーシティ
- 【第10回】定量評価と定性評価
- 【第11回】戦略的な人材育成

人を企業の財産にするために、運営するだけ、企画するだけではない、育成の打ち手となる企画を立案するための仕組みやツール、体制等をご紹介します。
- 【第1回】人材育成企画の要諦とHPIモデル
- 【第2回】HPIモデルから人材育成の全体像を考える
- 【第3回】パフォーマンス分析とコンピテンシー
- 【第4回】コンピテンシー導入と留意点
- 【第5回】人材育成手段の全体像
- 【第6回】人材育成の外部委託と内製化
- 【第7回】Off-JTの業務プロセスと人材育成企画担当者のすべきこと
- 【第8回】研修の目利き
- 【第9回】研修の内製化とインストラクショナルデザイン
- 【第10回】OJTを機能させるためには?
- 【第11回】人材育成における上司の関わり方と『1on1ミーティング』
- 【第12回】人材育成の効果測定とPDCAサイクル

人は経営資源の1つだからこそ、教育トレンドワードも企業戦略に結びつきます。育成=戦略へと視野拡張の考え方をご紹介します。